2009年1月14日
書評を書くのは得意ではない。
極たまに本を引き合いに出すけれど、それはただおもし
ろかった、このセリフが決まっていた、などと書いてい
るだけのことで、書評ではない。だが今回は本について。
昨年末に買って、この正月に読んだ本はいくつもあった
が、寝食を忘れてというのは大袈裟だがそんな本にでく
わした。
スティーグー・ラーセン著、早川書房刊の
「ミレニアム1」ドラゴン・タトゥーの女、がそれだ。
2005年にスエーデンで刊行され、たちまちベストセ
ラーとなり、フランス、イギリス、アメリカで発売され、
あっという間に800万部の大ベストセラーとなった。
特に人口約900万人のスエーデンでは250万部も売
れたというから、この国で本を読む人々のほとんどが読
んだといっても過言ではない。
このことは、本の帯びに書いてあったことだから書評で
はなく、まあ、言ってみれば早川書房の宣伝の受け売り
にすぎまない。
ストーリーを書いてしまうという暴挙はさけつつ、どう
いう物語であるかを紹介するために、簡単なあらすじを、
映画でいえば予告編を書いておきます。
主人公は、
ミハエル・ブルムクビスト。経済ジャーナリスト。
「ミレニアム」という経済誌の発行責任者で共同経営者。
老人の元に毎年誕生祝いの押し花の額が届けられる。
もうひとりの老人と「今年もきたよ」と会話をする。
老人は、スエーデンの引退した大企業の元会長。
もうひとりの老人は、元会長と親交のある元警部。
ふたりは、迷宮入りしたある失踪事件を今だに引きずっ
ていることがプロローグで語られる
主人公ミハエルが「ミレニアム」で特集した或る大企業
の内幕記事を巡って大企業側から訴えられ裁判となり、
名誉毀損で有罪判決を受けるところから本編がはじまる。
ミハエルは「ミレニアム」を去るが、ある弁護士から仕
事を依頼される。それが、プロローグに登場した未解決
の失踪事件を身内に抱える元会長からの仕事だった。
依頼は2つ。
1つは元会長の大企業の企業誌、家族一族誌の執筆。
2つ目は秘匿の依頼で、30年前に殺されたと警察で判
断された姪の失踪事件の謎を解明することだった。
共同経営者であり愛人関係にあるエリカは、信用が失墜
したこの雑誌を存続させることができるのだろうか?
経済ジャーナリストであるミハエルは、警察が解明でき
なかった失踪事件の謎を解くことができるのだろうか?
巨悪を知り得ながら証明することができなかったために
裁判では負けてしまったミハエルは、果たしてその巨悪
をどう裁くことができるのか?
30年前の殺人事件とジャーナリズムのあり方と巨悪と
の戦いが同時進行で展開するのである。
この物語には、数十人の人物が登場する。スエーデンの
物語なので、ミハエルとかヴェンネルストレムとかグレ
ーゲルとか耳慣れない名前の人々が登場する。読み始め
は誰が誰だかよく分からなくて、そう言う場合はたいが
い読むスピードがぐっと落ちるものなのに、かまわずど
んどん読み進んだということは、この物語がわたしには
どれだけおもしろいものであるのかを自覚しながら読ん
だということだろう。ぶ厚い本なのにどんどん読み進む。
例えは悪いが、あのマイケル・クライトン本のように次
から次へと出来事が起こる。
例えは悪いが、ダン・ブラウンの「ダビンチ・コード」
のようなスピード感でストーリは展開される。
フリーセックスの国スエーデンの物語であるから、セッ
クスシーンもふんだんに登場する。
開高健が、
次から次へと読み進める本=ミステリーとポルノ。
と名言を残したが、ミステリーにセックスシーンが登場
してくれるのである。
余談ですが、我が大学時代の悪友・綺羅光は日本を代表
するポルノ作家であるが、彼もまた名言を吐いた。
ミステリーにポルノは味付けになるが、エロにミステリ
ーは不用である、と。
主体が逆転するだけでおもしろくなったりつまらなくな
ったりするのが読み手の微妙な心のアヤであります。
ただし、ふんだんに登場するセックスシーンといっても
綺羅先生のような微に入り細にいたる描写はない。男と
女がベッドに入るが、寝室のドアが閉まれば我々は外に
閉め出されるのである。その後は、大人の読者の想像で
ある。
そこに、悪魔的な魅力を持つ女が登場する。
ミレニアムシリーズ・1の副題:ドラゴン・タトゥーの
女である。
25才。小柄で少年のような身体つきをし、パンクロッ
カーのように眉にピアスをし、肩胛骨から臀部にかけて
ドラゴンの入れ墨が躍っている。過去は一切不明。誰と
も口をきくこともなく誰とも心を許し合おうとしない天
才情報収集員。作家のステーグ・ラーソンは、よくこの
キャラクターを作り上げたものだと感心する。ひょっと
したら小説史上初めて登場したキャラクターではないか。
あるきっかけがあり、この女とミハエルは組み、失踪事
件の謎の解明と巨悪の告発とジャーナリストとしての復
権を勝ち取っていくのである。
悪い例えとしてと、マイケル・クライトンとダン・ブラ
ウンをあげたが、この両者なにが悪いかと言えば、始ま
りはあまりにもワクワクドキドキするが、結論がふにゃ
ふにゃであるという共通の欠点がある。ことろが、ステ
ーグ・ラーソンの手になるこのミステリーは最後の結論
におおいに溜飲がさがるのであるから、展開される物語
の悲惨さにもかかわらず、ハッピーエンド物語を読んだ
ような読後感があるのである。とてつもない新人の登場
である。
「ミレニアム」は全3部シリーズで、今回のドラゴン・
タトゥーの女はその第1部である。これから2部、3部
と刊行されるがこれからいったいどうなるのか、発売が
待ち遠しくてたまらない。
付け加えると、ヘレンハルメ・美保、岩澤雅利両名の翻
訳者の力もかなり大きいと思う。訳者のあとがきを読む
と、まず岩澤氏がフランス語版から翻訳を行い、これを
ヘレンハルメさんが原書であるスエーデン語版と照らし
合わせて修正を加えるという作業だったらしい。あまり
馴染みのないスエーデンの物語がストレスなく読めるの
は、両名に負うところが大きいと思う。
さて、とてつもない新々作家ステーグ・ラーソンのこと
について書いておこう。彼自身も主人公ミハエルと同様
ジャーナリストとして長い間その世界で活躍した人で、
10年ほど前からこの「ミレニアム」の執筆にはいり、
3部作を書き上げた2004年に出版契約が成立し、こ
のシリーズは2005年に発売されたのだが、ステーグ・
ラーソンその人は、自身の著書の大成功を見ることなく
2004年11月心筋梗塞で世を去っている。享年50
歳。冥福を祈りたい。