200年9月4日
いつも空がぼんやりと薄雲っている北京にはめずらしく
晴れ渡った空に夕陽が落ちていく。天安門前を東西に走
る長安通りを西へ向かう我らは、ココロはポール・ニュ
ーマン(カスヤ)、ロバート・レッドフォード(怪人)、
キャサリン・ロス(お銀)である。夕陽に向かって走れ!
である。北京ダック屋に向かって走っている。
天安門に毛沢東の大肖像が掲げられている。共産党によ
る建国以来約60年。2007年には北京オリンピック
を開催するまでに発展した世界の経済市場の中心21世
紀の中国で毛沢東は、建国の神であるといわれている。
そして、トウ小平(わたくしのPCではトウの文字のフ
ォントがありません)は、若い女性に圧倒的な人気があ
りアイドルであるそうだ。政治家がアイドルなんてちょ
っと不思議な気もするが、建国の父:大柄で偉丈夫な毛
沢東と比べ、小柄で親しみやすそうな庶民的なフェイス
を持つ小柄なトウ先生、豊かになれる者から豊かになれ!
と市場経済社会主義を実践したトウ先生、そのオカゲで
豊かになりルイビトンやシャネルを身につけられるよう
になった女性には、まさにアイドルであろう。
天安門広場を過ぎ、道を南に左に曲がると、右手には人
民大会堂、左手には毛沢東記念館が見える。めさすダッ
ク屋はその南側にある。2ヶ月前に行ったときは、天安
門南側の旧市街地区は再開発の真っ最中で、解体工事現
場の中に小道があり、そこを右に左にと曲がった先の迷
路の奥に店があるようで、
こりゃ今度来るときはたどりつけないだろうな・・
観光ガイド見たってたどりつけないだろうな・・・
と思っていたが、今は新しい道ができ天安門まで行けば、
後は目をつむっても行けそうな感じになっていた。これ
で知る人ぞ知る名店から誰でも行ける店になったわけで、
店には目出度いこっちゃが、これでまた予約が取りにく
くなると思うと、俺には目出度くなかった。だいたい予
約していても、一気に客がたてこむと予約もなにもあっ
たものではなく、中国式現場主義の混乱の極みをみせ、
時間通り飯が食えたことがない店である。怪人はそんな
目に何度もあっているから、空いてる席を見つければ、
予約!何時!何人!何匹!ビール!と叫びながら、店の
従業員が何を言おうと構わずずけずけと席を陣取るので
ある。混みはじめるとその手も使えないので、今回は開
店直後のかなり早い時間に来ている。
前回は6人でダック3匹で食べ残したから、今回は8人
集まるが3匹で十分ではないかと言ったが、怪人はいや
いや4匹でいってもらいます! という。
3匹で十分だよ。
いや4匹です。
3匹で十分だよ。
いや4匹です。
の怪人との押し問答が、リドリー・スコット監督映画の
「ブレードランナー」のうどん屋のおやじとハリソン・
フォードのやりとり、
うどん3杯くれ。(ハリソン・フォード)
1杯で十分ですよ。(うどん屋おやじ)
いや、3杯くれ。(ハリソン・フォード)
1杯で十分ですよ。わかってくださいよ。(おやじ)
の会話に似て可笑しかったが、怪人も現地化したようで、
人を招待してもてなす時には、あまるほど料理は用意す
るのである。
「なあに残ったからといって特に気にすることはありま
せん、1匹たった900円です。8人で4匹注文して、
ビール飲んで、勘定はそうですね400元(6000
円)でしょう」
との怪人の読みどおり、やはりダックは余ってしまった
が、勘定は400元だった。
利群ダック屋に集合したのは、お銀を除くと全員日本人
で、北京でヘアーサロンを経営する大盛りさん、出版社
に勤める琵琶さん、琵琶さんの同僚の寺琵琶さん、外資
系広告代理店に勤務する野田岩さん、北京のライブハウ
スのマネージャーのSM君、怪人、岡崎堂の8人。
大盛りさんは、かって日本の広告代理店D社にいて19
89年4月4日5日の両日東京ドームで行われたBOO
WYの解散コンサート「LAST GIGS」の仕掛け
人のひとりである。COMPLEXの解散コンサートも
彼と組んだ。以来約20年のつき合いである。
「あの当時、人の言うことをまったく聞かない奴がいた。
音楽の世界ではちったあ名が売れているかしらんが、
こっちは東京ドームを押さえスポンサーも用意し何も
かもセッティングしてるのに、それじゃあできないよ、
俺の言うこと聞かなきゃ何もかもできないよの一点張
りの生意気な奴で、なんてやつだと思ったが、不思議
なものだよねえ人の縁というものは。あれから20年
のつき合いだ。しかもこうして北京でまた一緒に飯食
ってるんだから」
と、口が悪い大盛りさんは、昔からとても素直で大人し
い俺をつかまえて褒めたり(?)けなしたり懐かしがっ
たり北京ダック食ったりと忙しい。ちなみに大盛りさん
のヘアーサロン(健街SOHO:ソレア)は、今北京で
もっとも女性に人気が高いヘアーサロンである。
琵琶さんは北京に来て約1年ほどで、
「この店(利群)のことは聞いていたんですが、なにし
ろまだ中国語に不案内で来かたがわからなくって・・
とにかく一度来てみたかったんです。実は家内がBO
OWYの大ファンで、あのマネージャーに会えるなら
是非よろしくお伝えくださいと僕より興奮していまし
たよ」と琵琶さんが言うと、
「だいたいあの当時この男はナマイキデ・・・」
と大盛りさんが昔話をもちだすのをまあまあまあとビー
ルを注ぎ足し押しとどめ、大手代理店の野田岩君に話題
を移すと宮崎出身だという。
「わかった皆までいいなさんな。俺が田舎を当ててみよ
う、高鍋じゃないか?」と言うと、
「えッ!!! ナンデ分かったんですかァ、宮崎は知っ
てても高鍋って知らない人が多いんですけど。いやー。
北京で高鍋当てられるなんて・・・」
と、こちらの当てずっぽうの豆鉄砲くらった鳩のような
顔をしていた。高鍋は今井美樹さんの出身地でそんな事
で知っているに過ぎないのだが、それでも高鍋の町にあ
る秋月藩御用達の老舗のまんじゅう屋さんとか、鉄骨屋
さんとか古くからある珈琲屋さんとか知っている。そう
いえば宮崎のそのまんま東国原知事が喉に腫瘍が発見さ
れたようで大丈夫かなあ。役者やお笑い芸人は病を隠し
活動することも可能だけど、県民投票によって選ばれた
知事という公的な立場では公的責任を果たすために病気
も公表せねばならない。良性であることを祈る。
話はそれるが今台風9号が東海関東地区にまっしぐらに
向かっている。かってないほどの大型台風で、すでに東
名高速道路:清水〜静岡間が通行止めになっていて、群
馬県では人的被害はでてないものの山崩れで道路が崩壊
している。会社でも帰れる人から帰りなさいと指令が出
て、スタッフもひとりふたりと帰宅していったが、かみ
さんから電話があって、娘の帰宅時に地下鉄が止まって
しまうと家に帰れなくなる、アンタ車で迎えに行ってく
れないかと言っていたから、娘からの電話をまっている
が夕方5時すぎたというのに電話は鳴らない。ニュース
によるとまだ東京の地下鉄は止まっていないようだが、
帰っていいものか、さていったいどーしたもんか。
さて北京の野田岩君のことである。野田岩君は、中学高
校時代を父親の仕事の関係でマレーシアで過ごし、大学
はロスアンゼルス。卒業後、東京で今の会社に勤め、現
在は北京で働いていて、高鍋には今、祖父と祖母がいて、
たまには高鍋に帰る事もあるそうだ。
野田岩君は東京にいたとき怪人と知り合った。でも、た
がいに北京にいることは知らなかったという。
へー。じゃあ、どこで出会ったんだい?
「風呂屋です。おおきな温泉ランドのような施設がある
んです。銭湯のようなでかい風呂ありジャグジーあり、
垢擦りも個室マッサージもある総合温泉ランドで、2
00元の入場料で食堂もあってしかも飯は食い放題で
すから、地元のじいさんばあさんとーちゃんかーちゃ
んガキんちょが一家総出で来て一日中遊んでますね。
日曜日なんか滅茶苦茶混んでましてねえ、そこの食堂
で会ったんです。怪人さんは温泉のパジャマ着て右手
にシュウマイ、左手にうどん持ってうろうろ席を捜し
てたんです。あれッ!? この人知ってるぞォ。誰だ
っけ??? と10秒くらいあったんですけど、すぐ
わかって、まさかァと思ったんですが声をかけたんで
す」
「客はいつ行っても中国人ばかりで、自分のこと知って
る奴なんか誰もいないと思ってるから、ゆるみきって
パジャマ着て、さー腹も減ったうどん食おうかナーと
思ってるところにいきなり声かけられて???・・・
瞬間誰だかわかんなかったですよ。きっとうどん片手
に、ココハドコ? アナタハダーレ? てボケた顔し
てたはずです。それより、風呂入ってる時よりゆるみ
きってましたから、まあ、言ってみれば裸よりココロ
は裸状態でしたから オオッー! 野田岩君。こんな
ところで会うなんて奇遇じゃないか! と再会をびっ
くりする前に、恥ずかしいとこ見られちゃったようで、
なんともまあ・・・」こんな奇遇な再会だったようだ。
ちなみにこの温泉ランドには、古くなった角質を食って
くれる小魚風呂があるそうで、入ると小膝や足の裏や肘
などに小魚がわっと群れてきてツンツクツンツクと角質
を食ってくれる。始めはナンダカ妙な感じがするらしい
が、慣れると気持ちよく肌もツルツルになってたいへん
良いという。怪人も野田岩君も大のお気に入りだそうで、
次回は是非と誘われた。
「気持ち悪くないのかね」
大盛りさんが小魚風呂に反応した。どんな大きさの魚か。
痛くはないのか。風呂の温度は熱いのかぬるいのか。ケ
ツなどに群れてくるのかこないのか。きた場合はどんな
感じなのか。と興味津々であるが、小魚話に手が動いて
いない。
大盛りさん、話はいいですが、ダックが手つかずに残っ
てますよ。みなさーん。はずんだ話はキープしながら手
は休めないでくださーい。薄皮に味噌塗ってキュウリ、
ネギ、ダックをはさんで巻き巻きして食いながらやりま
しょうや。まだ2匹食っただけですよ。ほらほら、3匹
目が運ばれてきました。一気にいきましょう。ビールと
煙草のむとき以外は手と口を休めないでくださーい。食
い尽くしましょうと呼びかけるうちに4匹目が運ばれて
きた。
そのうち、出版社の琵琶さんが岡崎の人であることがわ
かり、奇遇ですねえー。琵琶さんの同僚の寺琵琶さんが
野田岩さんと同じマンションに住んでいることがわかり、
奇遇ですねえー。大盛りさんと野田岩君が、元・現だが
代理店出身で、奇遇ですねー。奇遇話をサカナにしてダ
ックをむしゃむしゃビールをぐびぐびやっているうちに、
SM君がライブハウスに戻る時間がきた。SM君はなん
でSM君かというと、サドマゾ性的嗜好癖がありSM君
というのではない。そういえば、以前西麻布にあったS
Mクラブに行ったとき、最後にローソクをたらして痛め
つけてもらったことがあるけれど、あれは気持ちいいも
んだね。手の指の又にある指圧のツボなどにローソクが
たれるとお灸されてるような効果があり、ありゃいいも
んだと言うと、SM君はそんな趣味はありませんです、
若い頃2人組のバンド組んでいて相方がSMー1,僕が
SMー2という芸名でしたから、今じゃバンドやめまし
たがSMと呼ばれてるんです。という分けで、北海道襟
岬出身のSM君は残念ながらサドマゾではない。鞭も持
ってない。ローソクも持ってない。
北京に行く機会がありましたら是非ライブハウス「MA
O(マオ)」のSM君を訪ねてください。私の紹介で来
ましたと言えば、きっと優しく迎えてくれます。マオの
近所にはいろいろな店があるから美味い食い物屋やナイ
スなバーを教えてくれますよ。40元(600円)払え
ば、若い中国バンドを観ることができますよ。どんな音
楽やっているか知ることもできますよ。北京に訪ねる相
手がいるなんて、しかも北京では珍しいライブハウスの
マネージャーなんて、ちょっと通ですよ皆さんは。
というわけだから、SM君だけは、名を明かしておこう。
SM2さんと言って、読み方は「サムニ」さんです。
SM君の戻る時間を潮時に利群での食事会は終わりなっ
た。店の前で全集合の記念撮影をしながら、同じマンシ
ョンに住んでいると分かった寺琵琶さんと野田岩さんが、
よかったら次回温泉ランドに一緒に行きましょうかと話
している。大盛りさんが、その小魚風呂は女風呂にもあ
って女もその風呂にはいるのかネエ。俺が魚だったら男
のケツかじるのは勘弁してもらいたいなあーとのたまわ
った。御意同意して、これで北京の旅は終了。満月の夜
だった。翌日東京へ。お銀は雲南へ。