スウォッチ グループ、革新的な新型バッテリーで中国ジーリーGと契約締結
スウォッチ グループCEOのニック・ハイエック氏
Daniel Hug/NZZ am Sonntag(元原稿はドイツ語)
オメガや最高級時計ブランド、ブレゲ、ブランパン、ロンジン、ラドー、世界最大規模のムーブメントメーカーなどを傘下とするスイス時計界のコングロマリットであるスウオッチ グループ。過去にはメルセデス・ベンツと提携してフランスに自動車開発・製造会社を興し、電気とガソリンの併用によるハイブリッドエンジンの開発をいち早くアナウンスしたこともある。
こうしたDNAは健在だ。
中国自動車製造会社「ジーリー」が欲しがるスウォッチ グループのバッテリー。
腕時計製造のスウォッチ グループ、革新的な新型バッテリーの利用に関して中国のジーリー・グループと契約を締結------。
スウォッチ グループの研究所ベレノス社は、スイス連邦工科大学チューリッヒ校とともに6年をかけてこれまでにない革新的なバッテリーの開発に取り組み、既存のタイプよりも30%以上パワフルなバッテリーを目指してきました。このプロジェクトは現在、最初の成果が発表できる段階まで進み、この5月中旬には、ベレノス社は中国の自動車・オートバイ製造会社ジーリー社と、新しいバッテリー技術の利用に関する共同意思表明書に署名しています。
「これからは、この画期的なバッテリーシステムをジーリー社に使用してもらおうと思います」。スウォッチ グループCEOのニック・ハイエック氏はスイス、ビールでのインタビューに応じ、こう語りました。ジーリー社とベレノス社は、この協力体制のもと、実際にバッテリー搭載車両を使用し、実績を重ねたいと考えています。「これは私たちの発明にとって最初の大きな進歩であり、この開発に対して業界が大いに関心を寄せていることが分かります」とニック・ハイエック氏は話しました。意欲的なジーリー社と協力し、バッテリーの構造を使用目的に合わせて最適化することを目指します。
画期的なバッテリーの共同生産も早ければ2017年に中国で始まる予定で、陰極の技術と粉体はベレノス社が提供することになっています。スイスで開発されたこのバッテリーは、すでに20もの特許を有しており、現在の最優先課題は、中国の車道を走る電気車両搭載用バッテリーとして認可を取得することにあります。
ジーリー社の経営陣がベレノス社の発明を知ったのは、ニック・ハイエック氏が2015年に中国のテレビ局のインタビューに応え、新型バッテリーの開発について話したことがきっかけでした。2016年1月、ジーリー社の代表団がスイスを訪れ、現地の技術と生産施設を視察しました。4月になると、今度はハイエックが上海の南西約190キロにある杭州のジーリー本社を訪問、経営トップに会い、工場を視察しました。2週間前に署名した「覚書」には、ベレノスとジーリーの役割分担が明確に定められており、将来の協力に関する詳細な計画が盛り込まれています。双方とも、今後のステップはすべてその結果次第でしょう。
英語で「幸運」を意味する「ジーリー」。ベレノス社のバッテリーを利用すれば、ジーリー社が競争に勝つことも可能になります。というのも、バッテリーには通常リチウムが使われていますが、ベレノス社のバッテリーは、価格上昇が続くリチウムではなく、特殊なバナジウム化合物が使用されているからです。このバナジウム化合物は大量に入手可能で、リサイクルも簡単です。同じ重量の場合、バナジウムバッテリーを搭載した電気自動車は、通常のバッテリーを搭載したものよりも走行距離が30%伸びます。このスイスのバッテリーなら、充電時間も大幅に短くなるのです。
スウォッチ グループは依然として世界最大の腕時計メーカーですが、高級品を扱うメーカーは現在どこも、循環的な景気低迷に陥っています。中国・香港といった主要市場が縮小の一途をたどり、中国から欧州への観光客の量もこれまでのようには期待できません。また、ロシアへの輸出が急激に落ち込み、米国でも高度成長が終焉を迎えました。それを踏まえて、スウォッチ グループCEOのハイエック氏は、同グループの産業部門を強化し、世界の競合各社に先駆け、量産の準備に向けてさらにパワフルなバッテリーの開発に乗り出すことにしたのです。
このバッテリーは21世紀を代表する燃焼機関で、特に北東アジアで需要が大きく期待されています。昨年、中国では33万1,000台の電気自動車が販売されましたが、これはそれまで最大の電気自動車市場だった米国を遥かに上回る数字です。中国政府は助成金や税額控除で電気自動車の普及を支援しています。排気ガスゼロの車両は、中国各都市の深刻な大気汚染の緩和に役立つはずです。
また一方で中国は、電気自動車の輸出で稼げるような、国際競争力のある自動車産業の確立を進めたいとも考えています。ジーリー社は2020年までに全車種の90%を電気モーターの自動車に変えたいとし、4年以内には1/3の車を電気のみで走行する電気自動車に変えることを目指しています。台数で見ると、ジーリー社はこの分野の先駆者であるテスラ社を大きく上回ることになるでしょう。「2020年には、中国の道を何百万という電気自動車が走っていることでしょう」とハイエック氏は話します。
1997年に杭州で設立したジーリー・ホールディング・グループは、すでに海外で成功を収めています。2010年にはボルボ・カー・グループ(スウェーデン)、2013年には破たんしたロンドン・タクシー・カンパニー(英国、コベントリー)を買収しました。ジーリー社は新工場設立用に4億ドルの資金を調達したばかりです。この工場では、クラシックなロンドンタクシーの電気自動車モデルが生産される予定です。ボルボも、将来の青写真には電気が欠かせず、2025年までにバッテリー駆動の電気自動車を100万台販売することを目標に掲げています。研究開発から設計、生産まで自動車生産全工程のバリューチェーン(価値連鎖)をすべて統括するジーリー社は、中国の民営自動車メーカーのトップで、従業員数は4万7,000人以上。昨年の自動車売上台数は100万台を超え、そのうちの約50万台はボルボです。
自動車に加え、ジーリー社では年間60万台のオートバイやスクーターも生産しており、中には電気エンジンを搭載したモデルもあります。ジーリー・オートモービルは香港証券取引所の上場企業です。中国の景気の冷え込みにも関わらず、ジーリーは昨年、販売台数51万台以上と22%も売り上げを拡大しました。なお、今年の販売予測は60万台です。
革新的なバッテリーの技術を享受するのはスウォッチ グループにとどまりません。イティンゲン(スイス、バーゼル=ランド準州)にあるグループ内のバッテリー工場レナータでは、新しいタイプの小さなバッテリー向けに、初のフレキシブル組立ラインが9月末に稼働を始めます。このボタンバッテリーは、腕時計だけでなく、補聴器などさまざまな電気機器にも内蔵が可能。この組立ラインは、サイズが大きめなバッテリーの生産にも幅広く対応できます。
こうした効率的なバッテリーは、ドローンや電気バイク、電気スクーターにも使用できます。いずれスウォッチ グループは、パートナーを厳選して、これらの各分野にも参入することになるでしょう。スイスでは、具体的な応用を目指したプロジェクトがすでに始まっています。