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サステナブルなグラフィックについて考える
 ライター渡部のほうです。

 サステナブルの観点からパッケージデザインを研究する大学院生に宿題を出した。
「サステナブルなグラフィックはあり得るか?あるとしたらどんなものか」

 実はというかもちろんというか、正解はない。「これがサステナブルなグラフィックです」と言われれば、それがそうなのだろうし、「グラフィックはその時その場のコミュニケーションを促すものなので、サステナブルという考え方にそぐわない」と言われればそれも正しい。
 ただ、あえて「ある」とした場合、持続可能なグラフィックとは何なのだろう、何を伝えようとするのだろうか、持続可能といってもどれくらいの期間持続するのだろうか、といったことをしっかりと考えておきたかったのだ。

 純然たるグラフィックの中でも、長く使われているという意味で持続可能なグラフィックというものはある。例えば国旗がいい例だろう。他にも標識や公共サインなど、長く使われる事を想定し、定着を促しているものがある。
 パッケージに使われるグラフィックに限定した場合はどうだろうか。

 ロングセラー商品のグラフィックはサステナブルと言えるだろう。グッドデザイン賞の中のロングライフデザイン賞のリストを見てみると、森永ミルクキャラメルやポカリスエット、キユーピーマヨネーズ、6Pチーズ、永谷園のお茶漬け海苔など、が上がっている。ここ数年はパッケージのデザインでロングライフデザイン賞を受賞しているものも増えて来ているようだ。
 2019年には、中身を伴わない純然たる包装紙のみで三越包装紙が受賞している。包装紙が長く使われるケースでは、こうしたデザイン賞を取るものだけではなく、長く続く商店で使われている包装紙(大きなものでは百貨店があるが、小さなものでは町の和菓子屋など)もサステナブルと言えるだろう。

 ロングセラー商品やロングライフな包装紙は結果的に長く使われたわけで、発売や使用開始から「これから絶対100年使う」と決めたわけではないし、決めたところで経済や市場の動きによって変化するものなので、デザインをするときにロングライフとしてのサステナブルなグラフィックを作るのは難しい。

 視点を変えて、いわゆるSDGsの観点でサステナブルを意識した商品、地球環境に配慮した商品のパッケージに使われるグラフィックはどうだろうか。
 この場合、対象者が誰かによって意味が異なってくる。

 未晒しの再生紙や森林認証紙に、環境に優しいインクといった素材、森林や絶滅危惧種などのモチーフを使うのは、サステナブルをテーマにした分かりやすい方法である。
 10年ほど前は、森やシロクマの絵が多く見られたが、この数年を見てみるとあまりにも分かりやすすぎるモチーフは減ってきている。さすがに消費者も分かってきたということだろう。

 すでに地球環境に関心があり、その観点から物を買い、生活している、サステナブルが普通になっている人に取っては、あえて再生マテリアルやグリーンや、と強く打ち出しているメッセージはうるさいだけだろう。
 むしろそうしたメッセージ性を強く出さないが、パッケージの生産方法、使用後用途、処理方法が考えられ、ちゃんとしている事が分かっているほうがスマートに見える。

 最初のお題、
「サステナブルなグラフィックはあり得るか?あるとしたらどんなものか」
にもどってみると、当座の私からの答えとしては
「ある。解釈や使用用途により多岐に亘る」
となる。

 大学院生に出した宿題の締め切りはGW明け。ブログを見ているかもしれないが、そうであっても、どんな答えを持って来るのかが楽しみだ。

# by dezagen | 2021-04-30 09:51 | グラフィック
「銀座の生態観察」と高須賀活良個展
 ライター渡部のほうです。

 4月22日はアースデイ。地球環境について考える日だという。

 と、書きつつ、実は全くそんな事は意識せず、自然環境の大きな要素の1つである植物を見る展示2つを見て来た。

 1つ目は資生堂銀座ビルのウインドウで行われている「銀座生態図」の前半期の展示「銀座の生態観察」。

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 この棚の形は銀座の街を模したもの。それぞれの仕切の中に、実際に銀座で採取した植物、それを乾燥させたもの、葉脈化したもの、拡大して見せるもの、転写したものなどが飾られている。また、植物だけでなく、鳥やミツバチもいる。

「銀座の生態観察」と高須賀活良個展_b0141474_19485319.jpg


 銀座という自然とは無縁のように見える街にこのように豊かな生態系があったのかと驚くと共に、自然物をいかに扱うか、ヒントの多く詰まる展示だった。
展示場所 資生堂銀座ビル(中央区銀座7−5−5)
展示期間 2021年4月から2021年8月(WINDOW ART 「銀座生態図」の展示は前期/中期/後期で構成され、2021年12月まで展示予定)


 もう一つはひっつき虫の俗称で知られる「オオオナモミ」(この名前知りませんでした)を使った高須賀活良先生(東京造形大学の同僚先生)の展示。

「銀座の生態観察」と高須賀活良個展_b0141474_19485361.jpg

「ん?どこがひっつき虫?」とよくよくよくよく近づいて見ると、

「銀座の生態観察」と高須賀活良個展_b0141474_19485393.jpg

なんと、生地にびっしり着いているのだった。オオオナモミを生地に貼り付け、そのものが服のテクスチャーのように見せている。
(4月23日修正。オオオナモミ1個1個を羊の毛に着けていき、オオオナモミ自体のくっつく素性で形が作られている、とのこと)

展示場所 ギャラリー檜e・F 中央区京橋3-9-2 宝国ビル4F
展示期間 2021年 04月 24日まで

 アースデイとか地球環境と聞くと、事が大きすぎてどうしてもとっつきにくいところがある。自然環境はすぐそばにあり、近視的に見ていく事でもっと身近に感じる事ができる。また、それらとどのように付き合っていけばいいのか、もっともっと人間が寄って見ていく事で見えていくような気がした。

# by dezagen | 2021-04-22 19:50 | 展覧会
八王子総合卸売センター 宮崎勇次郎 壁画
 ライター渡部のほうです。

 市場が好きだ。台湾各所の、ソウルの、ジョグジャカルタの、チェンマイの、ハノイの、と言い出すとキリがないが、特に東〜東南アジアの市場はいい。
 同じ場にいながらにして異業種。お互いの陣地を邪魔しないようにしつつ自己主張。果物が並び、サンダルが並び、惣菜の香りがする。そんな雑多な雰囲気が好きだ。

 残念ながらこの状況下でそうした市場に行く事はできなくなっている。と、思っていたら、灯台下暗し。八王子の北野に「八王子総合卸売センター」http://sogo-ichiba.com なる場所があったのだ。

八王子総合卸売センター 宮崎勇次郎 壁画_b0141474_08163114.jpg
八王子総合卸売センター 宮崎勇次郎 壁画_b0141474_08164391.jpg

 収納とディスプレーを一手に担ってしまうダンボールと発泡スチロールの箱が積み上げられ、通路を浸食せんとする勢い。そうそう。このシズル感だ、市場といえば。

八王子総合卸売センター 宮崎勇次郎 壁画_b0141474_08170910.jpg
 味わい深い喫茶店も。

八王子総合卸売センター 宮崎勇次郎 壁画_b0141474_08173005.jpg
 味ある手書きポップ。

 そんな味ありまくりの八王子総合卸売センターに、もう一つコクを増す要素が最近加わった。

八王子総合卸売センター 宮崎勇次郎 壁画_b0141474_08175321.jpg
 この壁画は東京造形大学の同僚先生、宮崎勇次郎先生 https://miyazakiyujiro.wixsite.com/yujiro-works の作品。テーマは、爽やかに「グッドモーニング」。なぜ虎?天狗?スマイルマークのお日さま?と色々疑問があったので、宮崎先生に作品を解説してもらった。

「2020年は距離感や生活様式が見直され、人情味溢れ個性豊かな人々が働く八王子総合卸売センターも同様に一定の距離が保たれるようになりました。
買い物の滞在時間も決められたセンターでは、隣近所との会話や、店主の持論を交えた社会論などの多くの世間話が失われました。
今回の壁画では、東北地方で古くから伝承されている「虎舞」をヒントに虎を描き込みました。虎舞は「虎は一日にして千里行って、千里帰る」ということわざから、船乗りが無事に帰る事を念じた舞です。
その他に浅川の桜、高尾山から望む富士山との天狗など八王子になじみあるモチーフに加え、市場の朝をイメージした目玉焼きとソーセージのスマイルを描きました。
いま起こっている事が早く収束し、良い朝が迎えられるように願い制作をしました」

 なかなか深い意味が込められていたのだった。

 市場というのは雑多で、それがゆえに生まれてくる力がある。こういうところで絵を置くには、絵にもそれなりの力がなければいけない。宮崎先生の絵にはそれがある。

 宮崎先生の絵画はコラージュ的にモチーフを様々な所から持って来る手法なのだけれど、ただランダムにモチーフを選ぶのではなく、意味性を持たせながら一つ一つ丹念に選ばれたモチーフの集積というのも、力強さの1つの理由ではないだろうか。それを同じトーンにはせず、異なるテクスチャーを持つ表現で組み合わせる事で、いわば異種格闘技的なダイナミックさが生まれている。
八王子総合卸売センター 宮崎勇次郎 壁画_b0141474_08181174.jpg
 こちらも市場の中のシャッター。
 神は細部に宿る、という言葉を思い出した。

# by dezagen | 2021-04-16 10:45 | その他
クロネコヤマトとノイズ
 ライター渡部のほうです。

 ヤマトグループの新VIが発表され、4月1日から使われ始めている。

 私はこのニュースをTwitterで知ったのだが、私のタイムライン上ではあまりいい評価とは言えなかった。ツイートしていた人達はリニューアルされたシンボルマークと新しく生まれたアドバンスマークに対して、イヤだ、という意味の事を書いていたがTwitterの文章量が短いせいか明確な理由はあまり書いていなかった。
 とはいえ、ニュースサイトやSNSなど広く見てみると、好意的な意見も多くあった。

 私個人の意見を言えば、実は、特に何も思わなかった、のだ。

 シンボルマークは前のものから足の数など複雑な重なり部分を極力減らし、可視性を上げている。イヤだと感じるほどの大きなリニューアルだとは感じられない。新しいアドバンスマークは猫の顔が抽象化されすぎ、2つの顔が重なり過ぎているようにも感じるが、アドバンスマークの使われ方が今一つ把握出来ていないので、これは判断しがたいところだ。

 国際的に活動の幅が広がるヤマトグループだけに、日本独自の言語から国際語に変化していく時の当然の帰結だろうなー、と妙に納得してしまったのは、ひょっとすると自分の鈍感さかもしれず、むしろ強く拒否反応を出せる人のほうが羨ましい。
 
 この新VIを手掛けたのは日本デザインセンターの原デザイン研究所。

 日本デザインセンター facebookによれば
「「クロネコマーク」は(中略)環境デザインともいえる広がりがあります。」
と、シンボルマークを環境の1つと捉えている事が伺える。
 また、上記のヤマトグループのサイトによれば
 コーポレートカラーは「どのようなかたちになっても環境にノイズを生まず」とあり、ここにも「環境」という言葉が使われている。
 
 これらの言葉から判断すると、新しいVIは周囲環境に溶け込み、視覚的ノイズにならないよう配慮されたデザインを目指したのだろうし、その意味でものすごく洗練されたデザインは納得がいく。

 それでも「前の方が良かった」という人達の気持ちがあるのは、単なる愛着だけではないような気がする。新VIが排除しようとした視覚的ノイズだが、むしろこのノイズが愛されているのではないか。
 
 ノイズって何だろう。カレーライスにおける福神漬けの毒々しい赤とか、そんな感じだろうか。山菜におけるえぐみだろうか。もちろんえぐみだけだったら山菜は食べられないんだけど。


# by dezagen | 2021-04-11 19:58 | グラフィック
ドリルデザイン highcollar
 ライター渡部のほうです。

 ドリルデザイン http://www.drill-design.com の新作展示会に行って来た。

 今回の作品はスチールの総合企業、井口産業株式会社とのコラボレーション。屋外用のhighcollarと名付けられたテーブルとベンチの作品で、「POOL」「TERRACE」「CASCADE」と、形の異なる3つのシリーズが揃っている。https://highcollar.tokyo

 「POOL」は丸っとした骨太なフレームが特徴的なベンチとテーブルの組み合わせ。「TERRACE」もベンチとテーブルを組み合わせたもので、こちらは直線的でシャープな印象。「CASCADE」は小さいスペースでも使えるような細いベンチとテーブルの組み合わせ。回転軸で折りたたんでも開いても使える。

 特に屋外用のベンチ、テーブルとして新しさを感じたのは「POOL」。

ドリルデザイン highcollar_b0141474_21425561.jpg

 テーブルとベンチが一体となって自立している。そのため、横のスペースに空間が生まれ、ベンチに座る時の座りやすさだけでなく、車椅子やベビーカーなどを寄せるのも楽になる。

 下の写真の模型からも分かるように、テーブルとベンチの組み合わせは4人掛けを一セットとしてモジュール化されて、横にどんどん足していく事ができる。

ドリルデザイン highcollar_b0141474_21432561.jpg

 セットとしては、8人掛け用も用意されているが、オーダーし12人掛け、16人掛け、と伸ばしていく事ができるわけだ。

 また、かなり骨太なスチール部分は丸みをもたせ、ぶつかっても安全。かつ、この丸々としたスチールがいかにも豊かでおおらか。色のバリエーションもメタリック色(シルバー、カッパー)、グリーン、ベージュ、黄色と5色を揃え、それぞれに異なる表情を見せる。

 ドリルデザインは家具から鞄から靴から鍋から素材から、と、実に様々なデザインをこなしているが、いつも「新しい!」「欲しい!」と思わせる魅力に満ちている。
 ドリルデザインの作品の全てに言えることとして、
1 形が良い。
2 色使いが程良い。
3 バリエーション展開ができる(モジュールで応用が利く)。
という3つが挙げられると思うのだが、今回もまたきっちりとこの3点は押さえた、いかにもドリルデザインらしいものとなっている。

ドリルデザイン highcollar_b0141474_21435012.jpg
(写真はCASCADE)


 少し話が逸れるが、実家の改修工事の準備のため、ちょうど屋外用フェンスを見ていたところだった。カタログを見たりショールームも行ったりしているのだが、あまりにも全部が似すぎていて、あとは機能で選ぶしかない、という状況。フェンスだけではなく、屋外什器はあらゆるメーカーが話し合って決めたのか?と思うほど、皆、地味で変哲がない。
 昔スペイン、バレンシアの展示会に行った時、屋外什器は様々な色と形に富んだものが揃い、いかにも日の光を浴びた生活を楽しんでいる様子が感じられたものだ。

 日本でも、屋外用は目立たないもの、ではなく、いい色、いい形でものを決められるようになると良いな、と思っていたところにドリルデザインのhighcollarを見たのはよい衝撃だった。

# by dezagen | 2021-04-08 11:09 | 展覧会