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Royal Collage of Artの卒制展
ライター 渡部のほうです。

先週、ロンドンに行ってきました。
6月18日〜29日まで、RCA(Royal Collage of Art)の卒制展が行われています。
www.rca.ac.uk/showcase/show-rca-2014/

現在RCAはケンジントンとバタシーの2つの校舎に分かれていますが、今回はデザイン系のケンジントン(こっちも校舎が道を隔てて2つに分かれていると言えば分かれてますが)だけ見に行ってきました。

まず、入口入って突然引き出しがなついてくる、この作品に度肝を抜かれました。
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(以下、名前、専攻、タイトル、参考URL)
Jaap de Maat
Information Experience Design
I Know What You Did Last Summer
www.rca.ac.uk/showcase/show-rca-2014/schoolofcommunication/informationexperiencedesign/jaap-de-maat/
センサーで人の動きを感知し、それに合わせて引き出しが動く、という仕組みなのですが、動きが繊細で近づくと「!」という感じでだだーっとやってくる。離れすぎると「?」と迷った感でうろうろし、見つけるとまた「!」とだーっとやってくる。
無骨な引き出しがかわいく見えてくるのです。
昨今、ロボット技術も進んでいますが、外見云々より、その動きのけなげさのほうに共感するユーザーが多いようです(というのは、ルンバ所有者からの声を参考にしているだけですが)。

センサーで反応するという点ではこちらも似たコンセプトの作品。写真に撮っていなかったので、下のウェブサイトで見てもらうしかないのですが。
David Hedberg
Information Experience Design
Smile TV
www.rca.ac.uk/showcase/show-rca-2014/schoolofcommunication/informationexperiencedesign/david-hedberg/
何もしないと砂漠状態の画面。見ている人の顔が笑い顔になると画面が普通に見えるというもの。
笑い顔が半端だと半端な形にしかならず、思いっきりイタリア人かアメリカ人のように(偏見)口角をぐわっと上げて笑わらないと反応しづらい、という難点があり、日本人で口角下がってる中年には結構辛いものがありました。

上の2つは機械と人間の関係性を考えたもので、専攻名である「Information Experience Design」とかユーザーエクスペリエンスデザインとか、最近のデザインでは欠かせない分野ではあるんですが、現実にはスマートホンの使い方といったような狭義のデザインで応用されることが多く、もっと幅広く視野を広げて見たほうがいいのだなあ、と思った次第。

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Esa Matinvesi+ Antonio Bertossi
Visual Communication
The Groupe AE(実際はAとEの文字が逆立ちしてます) a research project
www.rca.ac.uk/showcase/show-rca-2014/schoolofcommunication/visualcommunication/esa-matinvesi/
www.rca.ac.uk/showcase/show-rca-2014/schoolofcommunication/visualcommunication/antonio-bertossi/
こちらは2人での共同制作。学生から直接話を聞いたわけではないのできちんと理解しているかは分からないのですが、解説を読んで展示を見た限りの解釈。
企業とのコミュニケーションと言っても、実際にはユーザー、消費者などとのインタラクティブなコミュニケーションではなく、発信者の一方的な発言であることに着目。架空の企業AE(AとEの文字が逆立ち)を作り上げ、その虚構のアーカイブを見せることで、一方的な発言である限り、事実(と、思っているもの)はいくらでも歪められることを揶揄した作品。
揶揄というかパロディなので、いかに本物らしく(かつ、できればいかにバカバカしいことを)作れるかが勝負どころ。アーカイブは特に企業コミュニケーションがほとんど印刷物に頼っていた60年代〜70年代に年代を絞っていて、使っている紙や印刷の簡素さでその時代らしいものを再現しているところが巧いと思いました。
日本だと、イメージ広告が流行った80年代の企業広告をテーマにすると面白いかも。

こちらは、プロダクトデザインのジャンル。
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Tomomi Sayuda
Design Products
Desktop Fireworks / The Mask of Soul
www.rca.ac.uk/showcase/show-rca-2014/schoolofdesign/designproducts/tomomi-sayuda/
不思議なヘルメット?というところですぐ目が行きます。目を隠すことで他者から見る個人のアイデンティティを隠し、大きなスピーカーで言いたいことを大きな音声で出す、という作品。普段、言いたいことが言えず、自分の中に溜めてしまう人のストレス解消になります。
写真に映っていませんが、右側にもう一つの作品があります。スイッチを押すと、職場の机にありそうな物(テープカッター、マグカップ、ファイル、ホワイトボードなど)からディスコっぽいライティングが付き、パーティークラッカーが鳴り、シャボン玉が出て、花火が火花を散らすと、退屈な職場をパーティ気分にさせてくれます。是非こちらのサイトから動画を見て下さい。
www.tomomisayuda.com/work/desktopfireworks.html
制作した学生の左右田智美さんが展示を丁寧に説明してくれたこともあったのですが、日本人の私だけでなく、現地のメディアでも相当取りあげられた様子。テーマの中に今の社会が抱える問題を含んで、その解決方法として出しているところ、かつ、そのプロダクトを見るだけで機能や楽しさが伝わってくる、すぐ分かるデザイン、というところが評価されたと思います。

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Taehun Ko
Design Products
Journey Through Local Industry: Seat/Aluminium/Processes
www.rca.ac.uk/showcase/show-rca-2014/schoolofdesign/designproducts/taehun-ko/
同じくプロダクト専攻学生の作品。
地元ロンドンの製造業、工場を巡り、持っている技術で何ができるか、を探った作品。ロンドンで工場を持っている会社は、東京でも同じですが、小規模であるがゆえに小ロットでもフレキシブルに対応してもらえるメリットがあります。写真は、柔らかいポリエチレン系の椅子をモールディングし、アルミニウムで鋳造したもの。
上の左右田さんのようなコンセプチュアルな作品ではありませんが、こうした地道な作品は単純に好感が持てます。ロンドンではトム・ディクソンやマックス・ラムのところでアルバイトをしていたようで、彼らの影響も濃く見えますが、卒業後活かせると思えば、学生のうちはこれくらい素直に吸収力があってもいいと思います。

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Yu-Chang Chou
Innovation Design Engineering
RePack
www.rca.ac.uk/showcase/show-rca-2014/schoolofdesign/innovationdesignengineering/yu-chang-chou/
もう一つ、分かりやすい作品の例。再利用できる小型包装郵便のパッケージ提案。ふかふか素材でできた風呂敷のようなものをリサイクルして使います。MA(修士)のプロジェクトとしては、もう少し作り込んでもよかったような気がしますが、こういうプロダクトがあるといいなと思わせます。

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Sungsin Eo
Interior Design
Exhibitions for Children
www.rca.ac.uk/showcase/show-rca-2014/schoolofarchitecture/interiordesign/sungsin-eo/
こちらは一見分かりやすすぎるようでいて、結構インパクトのある作品。大きな積木のようなものが異なる堅さのクッションで出来ていて、見かけ固そうなのにくにゃっと曲がったり、絶対柔らかいだろうと思っても結構固かったり、見かけとのギャップが楽しい作品でした。

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Lais de Almeida
Service Design
The Ladder
www.rca.ac.uk/showcase/show-rca-2014/schoolofdesign/servicedesign/laisdealmeida/
こちらはサービスデザイン専攻の作品、というかプロジェクト。サービスデザイン専攻は、社会とのつながり方の模索をテーマにしたものが多く、プロジェクトがそれぞれ複雑で説明が難しいのですが、この学生の場合、玩具のようなモデルを作ったことで具現例が分かりやすくなっています。
The Ladderというプラットフォームがあり(モデル上では右側下の黒い屋根のもの)、様々な状況の人が登録をします。このモデルでは、決まった仕事のない若い男性(丸の土台に乗った人形)、3人の子供を育てている主婦(三角)、自分で生活できるけれど、お手伝いしてくれる人がいると助かる高齢の女性(四角)を例にしています。それぞれフルタイムでの仕事はできなかったり、お給料を払えるほどでなかったり、でも、サッカーを教えることができたり、家族の分にプラス1人分の食事を作ることが出来たり、できることもある。The Ladderはそのスキルをうまく繋げる役割をします。モデルでは、例えばサッカーグラウンドの前にあるくぼみに丸の土台に乗った人形と三角の人形を置くと、モニター画面に、子供にサッカーを教えている若者と、その子供のお母さんのつながりがアニメーションとして出てきます。
詳細は http://the-ladder.co.uk のウェブサイトで。

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Lizzie Raby
Information Experience Design
Big Black Coat
www.rca.ac.uk/showcase/show-rca-2014/schoolofcommunications/informationexperiencedesign/lizzie-raby/
こちらの作品はタイトルが「Big Black Coat」で、その作品はまた別の場所に展示されていますが、プロジェクトの一貫としてアイスクリームを使った体験型展示。自閉症や鬱病など発達障害、精神疾患とはどういうものなのかを体験してもらうツール。アイスクリームは自閉症を、アイスクリームはマッシュポテト、ミント+オレンジ、バニラ、マーマイトフレーバーの4種類で、体験者はフレーバーを伝えられず試食します。その時にHypo(鈍感)かHyper(敏感)かで、フレーバーが分からなかったり、過剰に反応してしまったりします。自閉症の症状として、通常の感覚よりもHypoであったりHyperであったりする。その疑似体験、というわけです。
疑似体験としては物足りなかったですが、私だけでなく次々人がやってきたので、人の関心を引くのに老いも若きも大好きなアイスクリームを選んだのはいい着眼点だと思います。

最後、グラフィック系の作品3例。

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Timor Davara
Visual Communication
Second star to the right, and straight on till morning
www.rca.ac.uk/showcase/show-rca-2014/schoolofcommunication/visualcommunication/timor-davara/
グラフィック云々より、そのDMの大きさに驚きました。手前のポスター(多分B3)がそれ。他の学生はポストカードか名刺サイズだったので。

Thomas Radclyffe
Visual Communication
Blue Cities for Crystal Globes
www.rca.ac.uk/showcase/show-rca-2014/schoolofcommunication/visualcommunication/thomas-radclyffe/
残念、写真に取り忘れたのでウェブサイトで見て下さい。
版画(風?)で都市のビル群を描いたイラストレーション。モノトーン、直線性と、正方形で見せる見せ方がビル群の寂しさをよく伝えています。こちらのサイトのほうがよく分かると思います。http://www.tradclyffe.co.uk

Sarah Lippett
Visual Communication
Stan
www.rca.ac.uk/showcase/show-rca-2014/schoolofcommunication/visualcommunication/sarahlippett/
こちらも写真を取らなかったのですが、グラフィックノベルを書籍化して展示。ミソはそれに合わせてちゃんとこの作品のウェブサイトがあるところ。
http://stanagraphicnovel.com

卒制展というのは展示スペースにも限度があり、また、他の学生の作品とも並び、注目を集める、作品をきちんと説明するのは難しいものです。
2年掛けて作り上げたプロジェクトと考えると、発表媒体が展示だけでは十分でないものも多いのです。グラフィックでもパンフレットやDMはもちろん、ウェブサイトやスマートフォンのアプリに応用する。あるいはサービスデザイン、ソーシャルデザインのような大きなプロジェクトであれば、文章や写真だけでなく、モデルを使う、など様々な方法で、見てもらいたいものをきちんと伝える方法を考えることが重要だと思わされる卒制展でした。
by dezagen | 2014-06-25 07:10 | 展覧会