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続・キギ展 集合と拡散
ライター渡部のほうです。

かなり前から、海外に行っても「全く知らない国に来た」という感覚がなくなってきている。
自分が旅行慣れしてきたこともあるのだろうけれど、行く場所が都市部なのでどこの国に行っても同じ記号が多いことや、事前情報を取り込みすぎていることなどが理由だろう。

強いて言えば、ベイルートは久々の「異国」だった。
フレンチコロニアルとイスラムと地中海文化が混在していて、道が入り組んですぐ迷子になり、誰も使っていないビルの地下室に入って、あのドアを誰かが閉めちゃったらどうしようと思ったり、小さな雑貨店で壊れたメガネを掛けたおじいさんに英語混じりのドイツ語でずっと話を聞かされたり。
一体ここはどこで、なんでここにいるの?とは思うのだけれど、それがむしろ心地よい感覚。

と、いう感覚を日本は東京、代官山で味わってしまった。
『続・キギ展 集合と拡散』
http://www.hillsideterrace.com/art/130208.html


渡邉良重さんと植原亮輔さんのデザイン事務所キギ http://ki-gi.com の展覧会。
「続」というのは、昨年5月ギンザ・グラフィック・ギャラリーで行われた展覧会に続くもの、なのだが、gggの展示内容はそれまでの発表作品だったのに対し、今回は「デザインの仕事におけるイメージやコンセプトの、素のようなもの」(キギ ごあいさつ より抜粋)だという。
会場に行くともらえる、藤原えりみさんにより解説が、これが泣けるほど秀逸なのだけれど、なるべく今、解説を見ないで、自分の気持ちを思い出して書いてみる。

展示品を一部。

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渡邉さんの「ジャーニー」(上 額装の作品 詩:長田弘、ジュエリー:園部悦子。下 刺繍:鈴木久美子)
リトルモアから出ている同名の本『ジャーニー』の世界が、額装され、さらに額からあふれ出し、ジュエリーの現物と並ぶ。
http://www.littlemore.co.jp/store/products/detail.php?product_id=849

こちらは植原さんの「implosion←→explosion」
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遠目にもドットで描かれたものと分かるのだが、寄って見ると
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シール。

implosionは内破、explosionは爆発、の意味。
記録をとどめる写真を、ドットに分解=内破、さらにゆがめたり、ギリギリ元の絵が分かる/分からないくらいにまでドットを大きくしたり、散らばりを見せていくこと=爆発、と私は解釈。
シールは剥がされることもある。それが爆発の後の散乱なのかもしれない。

「時間の標本 #002」
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ラムネ瓶型のガラスに鉱石が閉じ込められている。
ガラスを通して見える世界は歪んでいて、幾千年を生きのびた鉱石と、新しいガラスとの時間のギャップ、まっすぐな世界と曲がった世界のギャップ、それを見ているのが楽しかった。

「時間の標本」
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古い書物から切り抜かれた蝶が本物の蝶のように見える。

実はもう1シリーズ「集合」という、紙レースの作品を最後に見たのだが、もうこの頃にはぽやーっとどこか自分の心がどこかに行っていて、写真を撮るのを忘れていた。
「集合」を見た知人は「もう美しいものしか見たくないと思いました」と言っていたけれど、本当によく分かる。

始めの「異国」の話に戻すと、キギが作る世界はとても異国。
渡邉さんの作品の名前が「ジャーニー」であったことは、偶然ではあるけれど、その名前につられたのかもしれない。とはいえ。
見たこともなく、どう進んでいくのか予想が付かず、でも不安ではなく心地よいところ。

物理的に遠い国に行ってさえ見たことがない感覚を探すのが難しい中で、頭の中にそうした世界をちゃんと持っていて、(ここが重要なのだけれど)形にできる人達がいるというのは本当に驚異的だと思う。
by dezagen | 2013-02-18 11:29 | 展覧会