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廣村正彰展「Junglin’」ジュングリン−意識が動く映像
ライター、渡部のほうです。

うかうかしていたら、西武池袋本店で行われた廣村正彰さんの展覧会も終わってしまったのですが、宮後さんと二人で行ってきました!しかもご本人の解説付きで、のご報告。

『ジュングリン—意識が動く映像』と題された展覧会。
まずは「ジュングリン」って何?と思う、その回答が一番分かりやすい展示がこちら。

「カラーバトン」
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サンプル映像。


ものを受け渡す映像が1つのフレームに入っている。本当は1枚の映像の、一つの固定された場所の中で受け渡しがされているだけなのだが、それが並ぶことで、順番に受け渡しをしているような錯覚に陥る。
この「順繰り」の感覚、が「ジュングリン」の言葉の元。

サンプル映像とは違い、実際にはメトロノームで作られた一定のリズムと合わせて送られている。
これが非常にツボを得た、気持ちいいリズムなのだが、実は人間の心臓の鼓動に近いリズムを選んでいるそう。
「人間って心臓の鼓動に近いリズムが一番心地がいいらしいんです。単純な動きが繰り返されていると段々意識が朦朧とした感じになってくる。催眠術と同じですね。
最初は細部を見ているんですが、そのうち全体として捉えるようになる。全体を見ている時に細部でちょっとでも変わったことが起こると、何が起こったんだろう?と気になるんですね。意識のあり方が変わっていくんです」と、廣村さん。

会場では、こうした普段見慣れていることに「あれ?」と思わせるような、展示を6種見せた。

「ラッピング」は、テーブルの上に、ものを包む動作を見せる。
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「包まれるモノも包んでいる紙の裏側も、背景も真っ黒になっています。なので最初は何を包んでいるのか分からない。包み始めて段々形が出て来る。15の商品があるのですが、会場で配られる紙にそのモノの絵が書いてあるので、そこから想像してもらう。モノの凹凸を忠実に覆うのではないのですが、人間はなんとか外形から中身を想像しようとするんですね」

「ドア」は百貨店のドアを通り抜けると持ち物が変わっていたり、服の色が変わっていたり、年齢が変わっていたり、というもの。
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「ドアの内と外で別々に撮っているので、同じ映像ではないのに、繋がっていると人間は当然のように同じ世界が繋がっていると考えてしまう。でも実は違う世界、というものです」

今回の展覧会はこれまでの作品を並べるのではなく、全く新しい表現を見せたものだが、デザイナーが展覧会として表現を見せることについて、アーティストのそれとの違いについて廣村さんに聞いてみた。

「作家性というのはそれほど出なくてもいいと思っていて、デザインというのは有効に目的を果たせばいい。けれども、それは数学と違って、プロセスにその人なりのものが出てしまう。その出てしまうものを面白がるのが現代のデザインだと思います。
デザイナーの中の作家性というテーマは未来永劫いつもあって、答え方はいくつかあります。一つは亀倉さんが言った「デザイナーは離陸したら必ず着陸しないといけない」。どこか目的があって、それを達成しないといけない。アートからも触発は受けるけれども、デザイン的に着地する場所、落としどころを考える。そこが違うんだと思いますね」

渡部が一番気に入ったのは「シャツ」。
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「真っ白なシャツを30枚並べて、そこにブルーのストライプの絵柄を投影しています。全体にストライプが太くなったり細くなったり、ばらばらに太くなったり細くなったり、もう一つは柄が溶けてフラットなブルーになる、3つの映像を流しています。もっと凝った演出も考えましたが、シンプルに見せるのが一番いいだろうと絞りました。
ブルーを選んだのも、まず光のブルーというのが非常にきれいだったことが挙げられますが、一般的にブルーのピンストライプのシャツを着ている人が多い、普遍的なものだから。恐らく知的なイメージ、清潔な感じ、といった根本的な概念があると思うんです。一般的に浸透している概念を整理する、これは今回の展覧会の展示すべてに言えることです」

展示物の中で最も一般的に見るモチーフである「ワイシャツ」を、最も凝ってない演出で見せている。廣村さんの言葉を借りれば「落としどころ」が明確に分かる。このシンプルさが、かえって「普通が変わることの不思議さ」を考えさせる効果を導いているように思った。
by dezagen | 2011-07-05 22:48 | 展覧会