execitemusic
本レーベルは、Excite Music Store及びモバイルコロムビア上で先行独占展開され、配信される楽曲は、国内で入手が困難な高いクオリティのアイスランド楽曲を幅広いジャンルで集めていきます。
レーベルリリースの第1弾は、ヨーロッパでは名高いアイスランドJAZZを展開、第2弾は、アイスランドPOPS、第3弾は、アイスランドクラブミュージックを展開していく予定です。
小倉悠加
(おぐらゆうか Yuka Ogura)
70年代半ば洋楽に目覚め、単身アメリカへ留学。大学時代から来日アーティストの通訳に従事し、レコード会社勤務を経てフリーに。以来、音楽業界で幅広く活動。カーペンターズの解説の殆どを書いているためカーペンターズ研究家と呼ばれることも。2004年自らアイスランドの音楽を扱うアリヨス・エンタテイメントを設立。ミュージック・ペンクラブ会員。
小倉悠加

カテゴリ:アイスランド音楽名盤紹介
  • 氷国歴史的名盤;小倉悠加のシガーロス論
    [ 2006-06-24 00:18 ]
  • アイスランドの歴史的名盤20枚
    [ 2006-06-15 19:26 ]
  • クリスマス・アルバム:ビョーク参加!
    [ 2005-12-02 18:04 ]
  • バングギャング、ムーム、スローブロー:音楽特集その2
    [ 2005-10-10 16:21 ]
  • 音楽マニア向け(?)アイスランド音楽特集:その1
    [ 2005-10-07 17:46 ]
  • シガーロス誕生日潜入記
    [ 2005-08-25 01:37 ]
氷国歴史的名盤;小倉悠加のシガーロス論
 気候不順により夏風邪をひいている方はいませんか?私はノドのちょっとしたイガイガを無視したばかりに、水を飲むのも辛いほどノドをやられ、急性咽頭炎で抗生剤のお世話になっています。気候の変化に体調がついていかないこともあるようなので、そういった症状を感じたら、ぜひ症状が軽いうちに養生してくださいね。

 さて、少しタイトルを気取って、アイスランド人が選んだアイスランドについて、少し掘り下げていきたいと思います。今回のブログは>に基づいているので、まずはそちらからお読みくださいね。
 
 アイスランド人が選んだ20世紀の最高傑作アルバム第一位には『アゲイティス・ビリュン』(1999年)が選ばれています。
 
 まずはなぜ第一位がビョークではないのか?ということを。これはたぶん単純な理由に思えます。ビョークは第二位以下、3枚のアルバムが選出されているので、票が割れてしまったということなのでは。1アーティスト1枚という基準であれば、間違いなくビョークが首位に輝いたことでしょう。同様に、もしもシガー・ロスが99年までに『()』や『Takk...』を発表していたら、同じように票割れして、トップに付けなかったかもしれません。それは時の運ということで・・・。
 
 それでもやはりシガー・ロスには卓越したものを感じます。一言でいえば圧倒的なオリジナリティ。シガー・ロスを初めて聴いた時、「これってジャンルは何?」でした。ロックというのは、それが縦ノリでも横ノリでも、いわゆるノリが非常に分かりやすく刻まれるものなのに、シガー・ロスはそれがよくわからない。
 彼らのライブもロック・コンサートにしては不思議な光景で、聴衆は微動だにせず音に聴き入るだけです。一瞬、60-70年代のプログレがそんな感じだったかもしれないと、私の乏しいプログレの知識を総動員しますが、それでもやっぱり、シガー・ロスには当てはめるジャンルもなければ、ジャンル分けを彼らが望んでいる訳でもなく、ただひたすら、自分達が心のままに演奏していった結果、あのような音楽になった、ということに尽きます。
 
 それは無欲の結実、とでも言うのでしょうか。もっともそれは彼らだけではなくアイスランドの音楽全般にとても言えることです。アイスランドではオリジナリティこそが命です。売れる売れないは二の次か、最後の最後。なぜなら、人口30万人ポッキリの島国のことなので、他人の真似をしようものなら芸術を創造するアーティストとして最低最悪のヤツに成り下がるからです。アイスランドにも地方のドサまわり用のコピー・バンドは存在し、そのようなバンドはそれで生活をすることが出来ますが、自己表現として音楽を演奏する者は、特にポピュラー音楽の世界では、絶対的なオリジナルを追求します。
 
 それから、アイスランドは大自然がごく身近に感じられる場所で、人々は自然の偉大さや脅威に、常に接して生きています。自然の息吹を感じ、自然の音を聴いて育つ国民ですね。それも非常に厳しい自然に接するのです。
 
 なので、彼らが作り出す音や雰囲気は、自然を感じさせるものが色濃く、特にシガー・ロスはアイスランド人が聴いても、いいえ、アイスランド人が聴くからこそ、「アイスランドの自然を感じさせる音楽」なのだそうです。幾人かのアイスランド人から、異口同音にそんな感想を耳にしました。
 
 そんな環境の中、国際的な音楽マーケットのコマーシャリズムに毒されることなく、自分の心に忠実な音楽を創造したところ、”こういうのが出来たんだよね”というのがシガー・ロスの音楽であると私は感じています。
 
 それから更に意味深いのは、アミナの存在です。アミナはシガー・ロスのバックでバイオリン等を引いている女性4人組で、ソロ・アルバムもリリースしています。彼女たちのソロはこちらです。 シガー・ロスの音楽的な特徴は、ボーイ・ソプラノ的なヨンシーのヴォーカルであり、ヴァイオリンの弦で弾く情緒的な音色のギターや幻想的なキーボードでしょうけれど、それにあいまって重要なのがアミナの存在です。ストリングスなら電子楽器でいくらでも出せますが、生弦の感情や迫力には叶わない。私は生弦の音がとても好きで、小学生の頃初めて生でヴァイオリンを聴いた時、動物が毛皮や羽をふるわせている様を思い浮かべました。前面で男性がガンガンと力強く演奏しているところに、繊細なストリングが女性によって奏でられるのは、音楽としてゴージャスであると同時に不思議で、また男女がそれを合奏しているのは、東洋的な見方をすれば陰陽の曲玉のバランスが取れているということでもありましょう。それはまた、宇宙があり、地球があり、自然があり、男女が共存してこの世の中があるというアイスランド人の大きな世界観にも繋がっているような気がします。
 
 2006年4月の来日公演を見ながら思ったのは、シガー・ロスは国際的に認められ、メジャー・レーベルと契約をして、ビョークに次ぐ大型アーティストとしての地位に君臨しつつあるけれど、決して「レイキャヴィークのキッズ」というスタンスは手放さないだろうということでした。そして自分達がアイスランドの、レイキャヴィークから来たことを誇りに思い、ラッキーだと感じていることも。
 アイスランドの音楽関係者は親しみを込めて「シガーロス・キッズ」とよく言います。私自身にとっても、シガー・ロスは国際的なアーティストではあるけれど時折カフェやクラブで顔を合わせるシガーロス・キッズです。それから、現地で「シガーロス」と言ってもたぶん通じません。正しくは「スィグロゥス」で、この発音であれば一発で分かってくれます。
 
 ・・・というような私のシガーロス論をシガー・ロス君達が読んだらきっと、「そんなに大げさに構えちゃいないさ」と一笑されそうですが、シガー・ロスはどこをどう切っても”アイスランド”が色濃く出くる、アイスランド国内でも最もアイスランドっぽいバンドです。そのアイスランド度の濃さは、ビョークの比ではなく、そういう点で、やはり彼らが第一位に選ばれたのは、とても順当だと思います。 (小倉悠加)




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by icelandia | 2006-06-24 00:18 | アイスランド音楽名盤紹介 | Trackback(1) | Comments(1)
アイスランドの歴史的名盤20枚
 これから何回かに分けて、アイスランド人が選んだ20世紀のベスト・アルバムをご紹介します。これは、アイスランドのロック音楽評論家/DJで、自らもアーティストとして活躍するドクター・グンニがアイスランドのロック史を執筆した際、リサーチとして行ったものです。グンニ氏が英訳したものを、著者に許可を得て翻訳しました。
 
 トップ20の一覧とグンニ氏による解説はこちらをご覧ください。
 アイスランドの20世紀トップ20アルバム
 
 上記にザッと目を通していただいた上で、これからちょっとアイスランドの音楽に詳しくなれる講座をやりますね。講座というほどのモンでもないかもしれませんが、どうぞお楽しみに!! (小倉悠加)




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by icelandia | 2006-06-15 19:26 | アイスランド音楽名盤紹介 | Trackback | Comments(1)
クリスマス・アルバム:ビョーク参加!
 12月に入り、街中でもチラホラとツリーを見かけるようになりました。アイスランドには13人のサンタ(クリスマス・ピープル)が存在します。で、その話はシリーズとして来週あたりから開始しますが、今日はクリスマス・ソングの話です。
 
 アイスランドにも独特のクリスマス・ソングがあります。アイスランド国内で発売されているクリスマス・ソング集は何枚か聴きましたが、う〜〜ん?!(明言は避けたい)という感想のものが多く、その中でやっぱりとても良かったのが、このアルバム『Hvit er borg og baer』です。
 
 このアルバムは、アイスランドの女流作曲家兼歌手だったインギビョルグ・ソルベルグスの作品を取りあげたもので、彼女は50年代を中心に、アイスランドで華やかな活躍をした音楽家でした。彼女が司会を務める国営ラジオでの番組は40年間も続いたそうです。
 
 アイスランド人の心の奥深くに根付く彼女の音楽は、現在も活躍中のアーティスト達により蘇り、このアルバムの中には他でもないビョークのヴォーカル曲も収録されています。・・・というか、私自身はこの一曲が聴きたいためにこのアルバムを購入したところ、他の曲もかなりよかったので、自信をもってお勧めできます。80年代末に録音された作品。
 
 『Hvit er borg og baer』はこちらで購入できます。すぐに売り切れる可能性があるので、その場合はご予約ください。以下は、私の感想文です。
 ■収録曲
  1.Jolabros i jolaos : これはアイスランドでナンバー・ワンのポップス・グループの座にかれこれ25年以上も君臨しているスツーズメンのリード・ヴォーカリスト、エギル・オラフソンが歌を担当し、バックに児童合唱団がついた、と〜ってもクリスマスチックで持ち上がる曲。
  
  2.Jolapula: うーん、中学生あたりのヴォーカルに聞こえなくはないけれど、案外大人の女性ヴォーカリストか?すごく判別できない。室内楽がバックに付いた、とてもきれいな曲です。
  
  3.Hin Fyrstu Jol: 混声合唱 ハープや室内楽をバックに歌うとても親しみやすい曲で、聴いたこともない曲なのに、なぜか郷愁を誘われるメロディラインです。
  
  4.Jolin eru ad koma: 1曲目の児童合唱団と、なんと1986年にミス・ユニバースに選ばれたホルムフリズールの歌唱。ちょっと素人っぽい歌ですが、なかなかほほえましい。
  
  5.Grylukvaedi:13人のサンタの話をする際に、話題にするかもしれませんが、私の超限られたアイスランド語の知識を総動員してタイトルから類推すると、13人のサンタの母親であるグリーラについての歌のようです。ヴォーカルはメガス!ビョークが敬愛してバック・ヴォーカルをずっと努めていたアイスランドのシンガーソングライターの巨匠で、アイスランド国内では、ノーベル文学賞に輝いたラクスネスと同様に、文学(詩歌、歌詞)の巨匠としてあらゆるアーティストから敬愛されている人です(会うといつも酒臭いけど・・・笑)。個人的には、グリーラというものすごく怖い母親と、メガスの毒のあるヴォーカルのコンビネーションが最高。このアルバムの中でも最高の出来でしょう。
  
  6.Hvit er borg og baer: 一曲目で説明したスツーズメンでヴォーカルをとる女性歌手のラッガがここではリードをとっています。ラッガは今年の愛知万博でも来日し、ナショナル・デイのパフォーマンスで大活躍した人です。
  
  7.I vetur komajol: 混声合唱。いかにもクリスマスという雰囲気の一曲で、しっとりとした曲調は、ホワイト・クリスマスっぽい感じです。
  
  8.Jolakotturinn:リード・ヴォーカルはビョルク・グズムンズドッティル。って誰?って、ビョークでしょうが!!ビョーク・ファンのみなさん、この曲が必聴であることは言うまでもありません。
  
  9.Barnagaelafra:このアルバムの曲をすべて作ったイングビョルグ自身の歌です。録音が古めですが、厳しい自然環境の中に響いたこの暖かな歌声は、さぞやアイスランドの人々の心を慰めたことだろうと、思わずにいられません。それにしても、アイスランドの曲はなぜこれほどメロディがしっかりしていて、日本人の心に響く哀愁をもっているのでしょうか。ギター・イスランシオの『スカンジナビア・ソング』や、ヨーエル・パルソンの『鏡の国のアイスランド』を聴いても、メロディ・ラインは共通の項目で、ごく普通のポップ音楽のフォーミュラを全く逸脱しているシガーロスにしても、根底にいはいつもそのようなメロディがあり、聴けば聴くほどいつも驚きます。
  
  10.Prettandasongur:アイスランドを代表するテノール歌手、クリスチャン・シグムンドソンと児童合唱団の歌で、まるでサンタと子供が楽しげに歌っているようで素晴らしい。
  
   いやぁ、いいですねぇ。英語でも日本語でもなく、全部アイスランド語というのも雰囲気があります。・・・おっと、私ひとりで楽しんでしまいましたか。
   
  オマケです。左のアルバムはシガー・ロスのヨンシーがプロデュースしたアイスランドのアマチュア・バンドの作品で、ヨンシー自身も一曲でリード・ヴォーカルを2曲でバック・ヴォーカルを担当。ヨンシーがリードをとると、どうしてもシガー・ロス的になり、シガロスのアウトテイクスだと言われたら、信じてしまいそう。購入はこちらから。売り切れていたら、ごめんなさい。ご予約可能です。 (小倉悠加)
   
 *バングギャングの『サムシング・ロング』はiTunesにもアップされています!よろしく!  
 *Mumのアイスランド語ヴァージョン・アルバムも入りましたが、速攻で売り切れ。みなさんご予約ください。
by icelandia | 2005-12-02 18:04 | アイスランド音楽名盤紹介 | Trackback | Comments(1)
バングギャング、ムーム、スローブロー:音楽特集その2
 『フィガロ・ジャポン』のアイスランド音楽特集を記念しての第二弾ブログです。私は音楽ライターで、ミュージック・ペン・クラブという音楽ライター団体にも属していますが、実は音楽そのものについてを書くのは苦手です。音楽は聴き手の受け止め方、感じ方次第で、それについてをとやかく言うのは違うんじゃない?と思うこともしばしば。ただ、そのアーティストの周辺は情報としてお知らせすべきだし、試聴があまりなかった時代、聴き手にその音の感じを伝えるために、「こーんな感じの音」という伝え方をするのは、有益かとは思うのですが、得意じゃないので・・・。
 ということで今回も、自分の体験談が中心です。下の写真は超なんとなくアイスランドのほのぼの風景ということで・・・。

 前回は一応、シガー・ロス、ムーギーソン、エミリアナ・トリーニまで書いたので(特集記事に掲載されているアーティストです)、今回はムームとスローブロー、バングギャングです。
 
 まずはICELANDiaアーティストであるバングギャングから。
 
 バングギャングはアルバムで初めて聴いた時、「これだ!」という感覚がありました。ただ、アルバムではよくても、ライブはどうよ?というのがあり、去年のAirwaves(アイスランドのロック・フェス)で初めてライブを見た時、すごーくうれしくまたホッとしました。だって、アルバムでよくても、ライブが駄目なグループって、結局ダメですからね。
 Airwavesのメイン会場はNASAという大きなクラブですが、去年のAirwavesの場合は海岸に近い美術館も会場として開放し、クオリティの高い個性的なグループは美術館に集められていまいた。NASAはハードなロックが中心で、美術館はもう少し芸術的な臭いのある上品なもの。美術館のメイン日には早くからビョークの息子シンドリが最前列のかぶりつきで見ていました。シンドリと私は音楽指向が似ているのか、行く先々の会場で見かけました。
 
 そのシンドリもノリノリで見ていたし、マスコミのカメラの数が尋常ではなかったのが、バングギャング。その音楽性は国内ではもう定評のあるところで、絶対に下手なものは見せないというバルディのこだわりもあり、その日も完璧なステージ展開。あの幻想的で白昼夢的なサウンドと、ささやくようなヴォーカルはアルバムと変わりませんが、ハードな部分になるとライブの迫力は断然ちがってきます。どこかのブログで、バングギャングのことを「静かなるハードロック」と表現していて、思わず納得してしまいました。前半は嵐の前の静けさの如くで、後半は一気にハードに盛り上がる。鳥肌ものです。
 歴史的超名曲を引き合いに出しては、おこがましいとは思いつつ、でも、そういう雰囲気なんだよなぁと思うのは、クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」やデレク・アンド・ザ・ドミノス(クラプトン)の「レイラ」。つまりは、とてもエモーショナルなのです。
 
 バングギャングのリーダーであるバルディ・ヨハンソンは、20代後半で、世代的にはシガーロスと同じです。それに本当に多才。最初の頃は、現在シンガポール・スリング(最新アルバム『Life Is Killing My Rock 'N' Roll』)で活躍中のヘンリックと共に、サーフ・バンドっぽい音作りのグループを結成していました。で、バルディ本人はサーフ・バンドと言いますが、まぁ若干それっぽい音はあっても、私が聴くと基本的にヘンリックが得意とするギター・ロックの音じゃないかと思います。それはシンガポールを聞けば如実に分かることでしょう。音楽的に指向が違う二人は、別々の道を歩み、ヘンリックはシンガポールを組み、バルディはバングギャングになります。
 音楽を追究する傍らで、映像の世界にも興味を示し、なんとアイスランドの民放では初めて、ハチャメチャなエロチック番組をプロデュースし、非難囂々。数ヶ月でこの番組は打ち切られたそうですが、アートコミュニティでの評価は高く、今では伝説の番組になっています。
 アイスランド国内で作られるショート・フィルムの音楽制作依頼も多くあります。今年の春、交響楽団用にスコアを書いたというのもそれで、どの映画に使われるのか未確認ですが、表に出てくるのがとても楽しみです。そしてこの夏は、アイスランドのハード・ロック(メタルに近い?)バンド、ミナス(Minusと書きます。マイナスって読まないでね)のリード・ヴォーカリストのクルミとずっとスタジオに入っていました。
 
 そうそう、現在進行中の山形ドキュメンタリー映画祭のアイスランドからの作品『Africa Unite』のサウンドトラックもこのバルディ・ヨハンソンによるものです。
 
 バルディ君、ちょっと気むずかしそうですが、案外いいヤツで、厳しいところもありますが、会った直後に電話をかけてきて、「お茶おごってくれてありがとう、って言い忘れてゴメン」という、変に(?)礼儀正しいところも。見た感じ、最初はゲイかなぁと思っていましたが、普通の男性(=女性好き)。アメリカ男性であれば絶対にその見分けには自信がある私も、アイスランド人男性って結構ゲイっぽく見えても、実はストレートということがしばしば。やっと最近、違いが分かってきたけど・・・。7月の来日時には、フランス人の可愛らし女性を連れていました。
 
 このアルバム・ジャケット、本当に素敵ですよね。実際のアルバムの印刷もとてもきれいです。女性が全裸でびっくりしたでしょうか?この女性はバルディの当時のガールフレンド。東洋系の女性で、「ストップ・イン・ザ・ネーム・オブ・ラブ」のビデオ・クリップにも登場します。全裸シーンはありますが、ごく爽やかなシーンで、スタイル抜群。日本人アーティストが、自分の彼女を全裸でビデオ・クリップに登場させたらビックリですが、大らかなお国柄なので、最初からみんな「きっと彼のガールフレンドだろうと思ってた」と。ジャケ写のためにヌード・モデルを使うという発想自体が無いようで・・・。
 
 音楽的に最も一般的に受け入れやすい、メロディも演奏も歌もしっかりしたもので、そのアレンジは職人芸的な繊細さがあります。カーペンターズのリチャード・カーペンターを引き合いにそれを言及する業界人もいるほどで、メジャー感もバッチリあり、私の頭の中には、そしてアイスランド国内はもっとよりヨーロッパでは、やはり「ビョークー>シガーロスー>バングギャング」という図式になります。
 
 アイスランド特有の雰囲気や音もたっぷりと持つポップス。北欧のバート・バカラックというのも、あながちウソではない表現でしょう。聴けば納得することと思います。そこらへんはぜひアーティストのサイトでご試聴ください。ビデオも見ることができます。購入は全国大型音楽ショップ、ICELANDia通販、またはアマゾン,HMV等の通販で。
 
 それから、以下に一般音楽ファンの方が書いてくださった記事(ブログ)があります。見つけた時はすごーくうれしかった!ご参考にどうぞ。
  ◎湯島の夜
  ◎音楽に満たされて(世界音楽紀行)
  ◎最近の聴いたり聴かなかったり
  ◎アイスランド音楽 バングギャング " Something wrong "
  ◎アイスランドの音楽〜バングギャングで心を優しく 
     *上記ブログに関しては、見つけたら加筆しております。
  
 次なるグループはムームです。Mumはムームと読みます。英語だとマムですよね。双子の女性姉妹が入っていて、彼女たちが結構可愛くて、ベル・アンド・セバスチャンのアルバム『わたしのなかの悪魔』のジャケット写真にフィーチュアされています。
 アンビエント・エレクトロニカとでも言うのでしょうか。エレクトロニカの割にはオーガニックな香りも強く、赤ん坊がおもちゃ箱をひっくり返しているような、穏やかな華やかさと明るさ、そしてアイスランド特有の影を持っています。双子の姉妹がささやくように歌うヴォーカルも魅力的です。現在までにアルバムは3枚出していて(EPは含まない)、デビュー・アルバムが『イエスタデイ・ワズ・ドラマティック〜トゥデイ・イズ・オーケー』『Finally We Are No One』『Summer Make Good』
 個人的には2枚目の『Finally〜』が一番好きで、ライブを見たことがあるのは新宿リキッドルームのみ。今年11月にも来日が予定されています。個人的なところでは、レイキャヴィーク市内の飲み屋でメンバーを見かけたりという程度です。去年アイスランドへ行った際、帰りの飛行機(アイスランド->ロンドン)で、彼らを見ましたが、話題もなかったので声もかけていません。それから『Finally〜』はアイスランド語ヴァージョンのアルバムがあります。日本で扱っているのは、たぶん私のショップのみかと思います。
 双子の片割れが脱退し、その穴埋め(?)として日本公演をこなしていたのがオルロフという女性で、彼女はシガーロスのバックを務めるアミナとも大の仲良し。いっしょにクラシック音楽を勉強した仲です。オルロフはまた、去年のAirwaves(アイスランドのロック・フェス)、スローブローの一員として立っていました。
 牧歌的、幻想的、おとぎ話的・・・いろいろな表現ができるグループですし、やはり彼女達もシガーロス同様、アイスランドの香りが色濃く出ています。
 

 毛色としてはスローブローもムームと似ていて、スローブローはもっとローファイになります。家庭にあるものを手当たり次第楽器にしたような面白さと、ムームよりもっとアンダーグラウンドな響き。それでも、スローブローという名が示すように、スローなパンチをくらっていると、そのうちに効いてくる、ある種スルメ的なものがあります。
 リーダーのダーグル・カウリは映画『氷の国のノイ』の監督であり、アカデミー賞候補になったアイスランド人のフリドリクソン監督以来の大物と言われています。サウンドトラックの『Noi Albinoi』も自ら手がけています(シグルズール・ニールスドッティルの曲も収録)。
 うーんと、スローブローのメンバーに初めて会ったのは、ヨハン・ヨハンソン(次回取りあげます)とお茶を飲んでいた時で、純粋にコーヒーを飲むためにミュージシャンやアーチストの出入りが多い、Kafitarというオーガニック・カフェでした。
 その後、ダーグルとはゆっくりと話をする機会がありました。とても穏やかでシャイな人で、雄弁とはほど遠いけれど、これをやると決めたら情熱をもってねばり強く進む人であるという印象。ただ、私が会った時は子供が生まれたばかりで、「少しの間、子育てで手一杯になりそう」ということでした。ここでお断りしますが、アイスランドは男女平等の国であり、その平等感というのは日本は到底及びません。進歩的な考えとかそういうのではなく、これが当たり前すぎる精神なんです。

 去年のスローブローのステージ、面白かったぁ。前述のオルロフがバイオリンを担当し、私の目に間違いがなければムームの片割れの女性も参加。ノコギリの大きなのをビヨヨンと曲げて音を出したり、タライを叩いたり、見ていると何だか「家庭用品雑音大会」みたいでしたが、これが案外他の楽器の装飾に効果的に使われ、クオリティの高いものに仕立て上げていたのはさすが。ダーグルのヴォーカルは決してうまくはないけれど、雰囲気はあります。それで充分といった感じ。ちなみにスローブローは現在までに3枚のアルバムを出していますICELANDiaのショップで入手できるので、興味ある方は是非どうぞ。
 
 ちなみに、ムームもスローブローも、最新作ではシガーロスと同じように絵本型の限定盤も出しています。
 
 おー、今回も長くなってしまいましたが、あと1回、このシリーズは続きます。(小倉悠加)
by icelandia | 2005-10-10 16:21 | アイスランド音楽名盤紹介 | Trackback(5) | Comments(11)
音楽マニア向け(?)アイスランド音楽特集:その1
 2005年10月5日発売の『Figaro Japon』でのアイスランド音楽特集、ご覧になりましたか?アイスランド音楽ファン必見です!!

 この特集を記念して、ICELANDiaのブログでも何回かに分けて特集しようと思います。マニアックな部類ですが、「へぇ、アイスランドの音楽やアーティストって、そんな風なんだ」という感じが伝われば幸いです。
 
 まずは2ページ見開きのSigur Ros。彼らはここ数年ですごく有名になり、最新アルバムの『Takk...』はリリースと同時にベストセラー。インタビューもあちこちで出ているので、まぁそこらへんはいいとして、ビョークもシガーロスもそうですが、アイスランドに帰れば隣の住人。メンバーをレイキャヴィーク市内の飲み屋で見かけることもしばしばあります(ビョークもそうだし)。『Takk...』のレコーディング中で、マスコミ完全シャットアウト時期でも、友人を介したら難なくインタビューできたし・・・。つまりは小さなコミュニティで、誰かに声をかければ、どこからともなく情報が入り、何かの手配が行える場所です。
 
 『Figaro Japon』の特集で、シガーロスの次ぎに出てくるのはムギちゃんです。ムーギーソンは思い出深いアーティストです。
 
 初めてムーギーソンに会ったのは2003年の夏。特に私自身が興味を持っていたわけではなく、デビュー間もない彼を12Tonarという音楽ショップのオーナーがとても買っていて、「ユウカ、一度会ってみないかい?」と勧められたからです。デビュー・アルバム『Lonely Mountain』を出した直後の彼はすごーくシャイで、写真を撮ろうとすると、顔がこわばってしまうほどの青年でした。
 音楽に対しての熱意はものすごく、私がインターネットのストリーミングでアイスランド音楽に特化したラジオ番組をやていることまで知っていて、びっくり。現在はやっていませんが、またそのようなことが出来る機会があれば是非!って感じですね。
 彼はイーサフィヨルズの出身で、確か去年まで両親の家を拠点にしていました。現在は住まいをレイキャヴィークに移し、ゼロ歳児の息子とガールフレンドといっしょ。確か2年前から地元で音楽祭を主催していて、そのサイトが素敵だったのでご紹介しようとしたら、消え去っていて残念・・・。会う度にオーラが大きくなり、今ではもう最初に会った時の木訥とした青年ではなく、ロック・スター然としています。

 個人的な思い出に終始しますが、彼のライブを初めて見たのは新宿のリキッド・ルームで、同郷のムームのサポートでした。機材の調子が悪かったこともあり、ちょっと奇異な感じでしたが、ま、いいでしょう。ライブの後、「どうだった?」と本人に聞かれたけれど、答えに困って「興味深い(interesting)」と言ってしまったら、「興味深いなんてのは聞きたくないな」って。ま、そうだよね。でも、お世辞にもgreatとか言えなかったんだよねぇ。

 でも、その1-2ヶ月後のAirwaves(アイスランドのロック・フェス)で見たムギちゃんのライブはすごくよかった。まず環境が全然違っていました。そこはPravdaという小さなクラブ。アイスランド国内では「ムギソンを育てよう」という雰囲気が濃厚で、始まる前からものすごく暖かなムード。レイキャヴィークから離れた、いわば片田舎で作った自主制作盤が認められて正式デビューとなり、Airwavesという晴れ舞台でのデビュー・ライブです。それまで彼を見守って盛り上げた来た関係者や友人で会場はいっぱい。そこには仲間のミュージシャンの観客も少なくなく、『Figaro』の特集ページにもあるムームのメンバーやヨハン・ヨハンソンも来ていました。
 機材の調子もよく、デビュー・アルバムから次々と曲を披露し、なかなか面白そうな話も交えてました。そういったトークの途中、何かの拍子で私を見かけた彼は、そこから話が突然英語に。ありがと〜〜。私を見かけたのか、私の周囲に誰か他にも知っている外人が居たのかはわからないけれど、やさしい心遣いに感謝。最後は「Poke a Pal」という曲を会場と大合唱して、とてもいい雰囲気でお開きに。間を置かず話題のマシュー・ハーバートのDJになったけど、みなムギソンに声をかけて会場を後にしました。私も、「東京よりもずーっとよかったよ!素晴らしい!」と声をかけたところ、はにかみながら微笑んでいました。
 その後、ムギちゃんとは、ロック・フェスのあちこちの会場で顔を合わせました。シガーロスのメンバーが入っていたAlbum Leafとか、現地で人気のハチャメチャなトラバントとか。

 2004年のAirwavesでのムギは、風格が出ていました。世界ツアーもこなし、アーティストとしても、人間としても外の世界をたっぷり知って大きくなったのか、オーラが断然違っていました。相変わらずフレンドリーだし、見かければハローはするけれど、あれからサウンドトラックを担当し、二枚目のソロ・アルバム『Mugimama Is This Monkey Music?』も出し、確固とした地位をアイスランドの中で築くことに成功して、意気揚々としていたのかもしれないし、またはAirwvesでもメインアクトとして一番大きなNASAという会場での出演だったので、緊張していたのかもしれません。
 彼は超話題のアーティストであり、ラップトップと生ギターでのワンマンバンドの調子も抜群。確かにアーティストとしての成長が見られるステージです。そこにゲスト・ヴォーカリストとしてガールフレンドやラッガ(愛知万博でも出場)が入り、最後はムギパパと呼ばれる名物の父親(イーサフィヨルズの名士)まで出てきて、会場は異様なまでの盛り上がり。
 
 少し厳しい見方をすれば、これはインターナショナルのレベルで通用するパフォーマンスであるからの盛り上がりではなく、あくまでもご当地での、新しく登場したユニークなアーティストで”盛り上がろう”という雰囲気の中の出来事です。この人気や盛り上がりが即座に国際的な市場で即座に通用するものではないけれど、結局シガーロスもムームも、そしてカラシも、このような地元の暖かな声援を受けての現在の彼らがあります。そういう点、アイスランドは音楽アーティストにとても暖かな環境です。でもここで忘れてはいけないのは、人口が30万人に満たない国だということ。音楽アーティストとして、国内だけの活動では生活ができません。非常に厳しいというか、最初から負け試合のようなものでもあります。だから、だから、だから余計に、物まねではない真に個性的なアーティストには、惜しみない拍手を送るのですね。ムギが氷音楽賞をほとんど総なめにしたのも、そんな励ましを込めてのことでしょう。・・・この年、ビョークは『メダラ』を出していますが、国際的に地位のあるアーティストよりも、地元でいかに顕著な活躍をして海外でも認められるようになったか、というようなことが氷音楽賞では問われます。
 
 この夏の来日も含めて、もう何度か日本を訪れているムギソンですから、ファンの数が増えているといいなぁと思っています。
 
 という、なが〜〜いムギちゃん関係文とは対照的に、エミリアーナ・トリーニに関してはほとんど何も知りません。ヨハン・ヨハンソンが、元シュガーキューブスのメンバーで、バングギャングのドラムマーとして来日したシッギと組んだプロジェクト、Dipのアルバム『Hi Camp Meets Lo Fi』で、エミリアーナがヴォーカルを取っていたために、少し名前を聞いたくらいでしょうか。初ソロの『Love in the Time of Science』は良質なポップス・アルバムでした(ティアーズ・フォー・フィアーズのローランド・オーザバルがプロデュース)。
 そこからガラリと方向性を変えた2枚目のソロ・アルバム『フィッシャーマンズ・ウーマン』を今年に入ってから出し、7月には久々にアイスランドでのツアーを行いました。そのツアーをきっかけにアイスランドでも人気が出ているようですが、基本的に現地の音楽シーンからは離れている人なので、アイスランド国内の関係者からこの人の名前が出ることはあまりありません。『ロード・オブ・ザ・リング:二つの塔』での歌唱にしても、ビョークが妊娠中だったので、北欧っぽいビョーク的な歌手はいないのか?というところでの歌手選択だったようで・・・。
 エミリアーナは素敵なシンガーですが、アイスランドの音楽に、(それが何であれ)何か特別なものを求める人には、ちょっと違うかもしれません。でも、だからこそごく普通に安心して聴ける人でもあります。
 アイスランド音楽特集はその2へ続きます。(小倉悠加)
by icelandia | 2005-10-07 17:46 | アイスランド音楽名盤紹介 | Trackback(7) | Comments(7)
シガーロス誕生日潜入記
 いつもICELANDiaブログをお読みいただき、有り難う御座います。
 私、密かにレイキャヴィークについての本を書いています。ヒミツで書いているわけではなく、どこでどのような形で出版されるか全く未定なので、一応密やかにということにしておこう、ということで、出版社、大募集中です。
 以下はその本に掲載するつもりでメモ書き代わりに書き留めておいたものだけど、情報はあれよあれよという間に古くなるため、シガーロスのニュー・アルバム発売を記念して、お裾分け致します。
 
 文中に、つじつまの合わないのはブログ用に書いたものではないせいで、例えば「前にも書いたが」と書いてあるのに、それについての記述が文中に全くない等、わかりにくい箇所は、申し訳ありませんが無視してください。
 なぜ今頃このような文章を公開することを思いついたかといえば、アイスランドが誇るポップス・グループ、バングギャングのアルバム発売が、計らずもシガーロスと同時期になったから。バングギャングはシガーロスに次ぎ、インターナショナルでメジャーな存在になると有望視されているグループで、シガーロスとは音楽性が異なるけれど、シガーロスとは違った場面での、アイスランドのある種の雰囲気をよく出しています。ヨーロッパのMTVでヘヴィ・ローテーションになった「ストップ・イン・ザ・ネーム・オブ・ラヴ」のビデオはグループのサイトでご覧になれます。Excite Music Storeにもそのうちにアップされてダウンロードできるようになると思いますが、発売元のICELANDiaに予約注文すれば、送料無料+何かのオマケ(フリーペーパーのIceland Style、7月に行われた万博のアイスランド・デイのプログラム、ポストカードのどれか)付きなので、アイスランド・ファンのみなさん、ぜひご利用ください。 『サムシング・ロング/バングギャング』ISLP-1001 発売は9月16日です。
 
 前置きが長くなりましたが・・・。
 
 私はアイスランドの首都レイキャヴィークで行われたシガーロスの10歳の誕生日(グループ結成10周年記念)に潜入したただ一人の日本人でした。潜入したというより、たまたま噂を聞き付け、その会場が宿泊していたホテルの近くだったこともあり、足を運んだだけなのですが、今思えば信じられないような出来事なので、シガーロス・ファンや音楽好きのみなさんに、少しでも楽しく読んでいただけることを願います。メモ書きなので、長ったらしいけれど、その雰囲気は何となく分かってもらえるかと思います。
 
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 2004年1月10日(土)シガー・ロス10周年記念誕生日パーティ潜入記: ビョークも来ました!

 ヨハンから数日前に気になることを耳にした。電話での短い連絡で、「よくわかんないんだけど、今度の土曜日にシガーロスの誕生パーティがあるらしい。そこでトラバントが演奏するみたいだから、行くといいかもしれない。時間は決まってないらしいけど9時か10時にははじまるんじゃないかな。場所はXXX何とかとか言っていた。僕もよくわかんないんだけど、誰かに会った時に聞いてみてくれ」ということ。
 これが東京であれば日時も場所もはっきりしない不親切極まりない情報だが、レイキャヴィークであれば事情は別。トラバントのメンバーは友人なので直接彼らに聞いてもいいし、地元のマイナー・バンドではなく国際的に活躍するシガーロスのパーティなので、他の音楽関係者も知っていることだろう。通りでシガーロスのメンバーを見かけるかもしれないし、情報の断片さえあれば、それで事は足りる。
 案の定、その場所はキモノのメンバーであるアレックスが教えてくれた。「そのパーティについては知らないけど、会場はきっとレストランの上階だと思う」と。
 
 夜の9-10時頃始まるということは、たぶん9時に行っても誰もいないかもしれないからと思い、その場所へは9時半に行った。ここらへんが日本人の律儀なところで、どうしても時間厳守したくなるところを、わざと時間をずらすのは気持ち悪い!
 もしも場所が分からなければ誰かに電話すればいいやと、アレックスから聞いた場所へ行った。そこは宿泊していたホテルの2軒先なので、間違えたとしても大したことはない。確かにレストランとは別側にドアがある。しかし有名バンドのパーティの割には周囲にまったく人がいないし、目の前の白い大きな扉は人を拒むかのように冷たく閉ざされているし、不安。
 案の定、その扉は押しても開かなかった・・・と思ったら、私の押し方が足りないだけだった。アイスランドの扉は往々にしてこんなもんだ。店舗の扉でも人を拒むかのように固く閉じられている。厳しい自然環境を思えば当然のことだが、ドアは開いているか、自動ですぐに開く日本の軽薄ドアしか知らないため、どうも勝手が違って戸惑うことが多い。
 ドアを開けるとそこは天井の高いガランとした入口になっていた。物置代わりにしているのか、自転車が一台と何やら機材が置いてあった。入ってすぐの左手にこのビルに入居している会社名らしき案内看板があった。確かに最上階にはヨハンから聞いたXXXという言葉と似たような響きの名前がリストされているし、インターナショナル・アーティストにふさわしく大理石のフローリングでゴージャスな感じはする。奧へ入ると左側に更なる通路があり、すぐに階上へと続く階段とエレベーターが見えた。それでもどーしてもイベントが行われている雰囲気ではなく、エレベーターが動かなかったらどうしようと、とにかく不安が拭えない。
 
 業務用のような大きなエレベーターで最上階へ行くと、一応照明はついていた。それでも不安・・・だって、本当にシーンとしていて、パーティ会場という雰囲気が一切ない。日本のように親切に、「パーティ会場はこちら」なんていうビラさえ貼っていない。もっとも貼ってあったとしても、アイスランド語では読めなかったことだろう。
 エレベーターを降りた通路の横に、いくつか通路や部屋らしきものがあったが、とにかく一番短そうな通路を歩き始めた。不安も手伝ってか、この3メートルほどの通路が長く感じたこと。少し歩くと右手に横幅2メートルもあろうかという長いコート掛けがあったが、そこにあったのはほんの数枚のコート。そこまで到達すると、どこからともなく音楽が聞こえてくる。あぁよかった。やっぱり少なくとも何かはやっているようだ。それに、その音楽は長年聴き慣れたカーペンターズの「「雨の日と月曜日は」なのでホッとした。更に歩き進むと、右手奥にバーのカウンターがあり、女性2人と男性1人が飲み物を用意していた。
 「誰かの誕生日だか何かがあると聞いて来た者ですが、実際何のパーティなのでしょう?」とそこの女性に尋ねると、「シガーロスの結成10周年パーティよ。”誕生日”ってことみたいだけど。メンバーは奧の部屋にいるわよ」
 バーを横切り更に奥まったところに、ライブ会場になる気配の30畳ほどの広いスペースがある。とても説明しにくい構造だが、そのライブ会場にドア一枚で仕切られるような小部屋があり、そのテーブルにシガーロスのメンバーと友人らしき数人が笑談していた。
 2003年4月の来日の際シガーロスとはアイスランド大使館で会っていたが、その時はコンサート後で疲れていたような感じだったので、自己紹介もそこそこあまり声をかけなかったから、たぶん彼らは私を覚えていないことだろう。ガランとしているので、とてもバツが悪い。知らんぷりでも変なので、ここは思い切って自己紹介することにした。
 「日本からたまたま来ている悠加です。アイスランド大使館でお会いしたことはあるんだけど、きっといろいろな人に会ったので覚えてないことでしょう。ヨハンからの電話で今日のパーティを知って、来ちゃったんだけど、招待されているわけではないから、お邪魔だったら・・・」と言いかけたら、
 「自由に飲んでエンジョイしてくれればいいよ」と言ってくれたのがキーボード担当のキャータンだった。彼らはヴーヴクリコを飲んでいた。
 みんなが集まっているテーブルには席の空きががなかったので、私は会場を一周して見てまわることにした。メンバーが集っていた部屋の横、私が通った長い通路に平行して実はもうひとつ部屋があったし、その細切れ感が面白かった。なんでも、夏はカフェ/レストランとしてオープンしていて、冬はこうして貸し切りのみに使っているそうだ。隠れ家的なカフェになっているようで、夏の間この周辺を頻繁に行き来していた私は、この場所のことを全く知らなかったし気付かなかった。
 そうして会場見学をするうちにテーブルの席が空いたので、ワイン片手の私はそこに腰をおろした。
 「私、エアウエイヴスの時も来ていて、アルバム・リーフの演奏はすごく感激したわ」とキャータンに言うと、隣のマリアが「私も演奏していたのよ」と言う。マリアはシガーロスのバックでバイオリンを弾いているメンバーであり、キャータンの奥さまでもある。金髪、色白、小柄のとても素敵な北欧女性だ。
 「もちろん覚えているわ。ギター、キーボードの響きにしっとりと艶やかなあなたのバイオリンがとても美しかったわ。ただでさえ綺麗なレイキャヴィークの空気を、更に浄めて人を夢心地にするような、本当に胸にジンとくる演奏だった」
 それを聞いたキャータンもマリアも満足気だったし、私のその言葉は決して嘘ではなかった。エアウエイブスのところでも書いたが、アルバム・リーフが誰だか知らなかっただけに、先入観なしに演奏を聞くことができたし、ヨハンの教会ライヴと並び、エアウエイブスのマイ・フェイバリット・ライヴだった。

 そんな話で少しはもりあがろうかと思った時に、ガタイのデカイ人物がやってきた。トラバントのドッディだ。そして私の横にかなり目鼻立ちの整ったスタイルのいい30代であろう女性が座った。そしていきなり私に向かって「私が留守中に家に来た人ね」と。
 何の事やらわかりませんとばかり、何の言葉も返せないでいると、
 「私がドッディの同居人、ガールフレンドのラーラよ」
 2003年5月、アイスランド・ブルーというイベント関係の出張で私は初めてアイスランドへ行った。その時出演予定のトラバントのメンバーにインタビューをしたのが、ドッディの自宅だったのだ。なんだそうだったのか。確かにお邪魔しました。ベッドの上にコートを置かせてもらいました!
 「あの時は自宅を使わせてくれてありがとう」ということで、ラーラとの会話が始まった。彼女はキャータンのお姉さん(!)で、フューネラルズのメンバーでもあるという。誰が誰の友人でも驚かなくなった私ではあるが、さすがに実の姉というのは少し驚いた。つーことは、ドッディはキャータンの義兄弟ってこと?!後から知ったことだが、ラーラは女優さんであるという。目鼻立ちがくっきりしているのでさぞブラウン管の映りもいいことだろう。
 次にはトラバントのギター担当ヴィッディが可愛いガールフレンドを連れてやって来て、ヴォーカルのラッシも現れた。何時頃からライブをやるのかと聞くと、残りの1名が仕事の都合で11時頃まで来られないだろうという。
 「とにかく全員集まったらやるから」というアバウトな返答。入場料があるわけではないどころか、無料で飲み放題なんだからライブがいつ始まろうと始まらなかろうと、構わないよね。
 
 会場の音楽はDJを頼まれた誰かと、シガーロスのヴォーカル担当ヨンシーの趣味で決めているという。70年代のモータウンやポップスが中心。カーペンターズは「The Singles」というアルバムを3回ほどフルにかけていた。アルバムを見たわけではないが間違いない。その他はジャクソンズやマーヴィン・ゲイなど。
 かなり人が集まってきたしトラバントがセッティングを始めるというので、テーブルを離れてライブ・ステージの周辺へと移動した。サウンド・チェックは開場前に一応やっておいたそうだが、やはり細かいところが気になるらしい。時間は10時半、それでもまだ最後の1名であるヒリンシが来ない。トラバントのメンバーの彼女達とあれやこれやの一連の四方山話を終えた後、私は会場を再度一周してみることにした。
 地元の彼らに言わせれば「大統領以外の有名人が全員居る」というほど、あの会場には地元では知られた人が揃っていたそうだ。確かに私ごとき部外者でも、20名程度は顔を知る人物がいた。それに紹介される人は全員何らかの芸術に関わっていて、映画監督、美術アーティスト、小説家等がすこぶる多かった。そんな中、いつも12Tonarで会うエイナールも来ていたし、アイスランド大学で日本語講座を学ぶ生徒がエイナールの友人でありシンガポール・スリングのメンバーでもあることを初めて知った。
 それはバーのカウンターに近づいた時だった。1時間前とはうって変わって、人混みをかき分けないと歩けない状態であるから、少し離れていると全然見えない。そう、ビョークが来ていたのだ。彼女は鮮やかなピーチ色のロングドレスを着ていた。胸のところがシャーリングしてあり、そこからカーテンのように流線型を描いて、布がきれいに垂れているような、そんな感じのドレスだった。
 一瞬声をかけるべきかどうか迷ったが、このようなチャンスは滅多にない。今思えばインタビューを直接申し込めばよかったけれど、地元に帰ってきてまで海外のジャーナリストに追い回されたくはないだろうと思い、結局しどろもどろに近い自己紹介をして終わってしまった。いったいこの人は何が言いたいのか?というような怪訝な顔をされてしまったが、まぁ私のことは彼女が地元で所属する会社のメンバーから風評で聞くかもしれないので、それはそれでいいだろう。日本の人々にレイキャヴィークの魅力を知ってもらいたくて本を書いています、ということは伝えたので、それでヨシとした。
 
 4回目の訪氷にしてやっとビョークに会えた!とミーハーしながらステージへ戻ると、トラバントのメンバーが全員揃っているではないか。時計を見ると11時をまわっている。会場はすし詰め状態。150人ほどいるのだろうか。それでも、前の方には余裕があるようなので、遠慮なく最前列へと進んだ。ステージ前とはいえ、ステージも客席も高さは変わらない。正確に言えば、ステージとおぼしき場所には10センチほどの段差があるのみだ。
 サウンドチェックを終えメンバーが会場外へ出ると、頃合いを見計らったように蝶ネクタイの老紳士がステージのマイクの前に立った。誰なのかわからない。アイスランド語なので話の内容もわからない。観客が神妙に拝聴しているところを見ると、誰かエライ人なのだろう。
 
 
 トラバントの登場はいつも大げさだ。ファンファーレのようなシンセが鳴り響き、メンバー全員が天に手を仰ぎ、いかにも「これから大暴れするよ!」という雰囲気をかもす。趣味の良さを示す代表格の”さり気なさ”とは全く無縁のグループで、何でも派手にやらなくては気が済まない。トラバントのことは、エアウエイヴスのところでも書いたので詳細は省くが、今回も超ノリノリだった。それもミュージシャン仲間や業界人が多いせいか、客席とステージの間には強烈な期待感があり、それはほとんど異様な盛り上がりだった。シガーロスのお気に入りバンドでもあるから誕生日を迎えた本人達は全員前に繰り出し、特にキャータンは奥さまのマリアといっしょに最前列の真ん前で拳を振り上げて楽しんでいた。
 トラバントのヴォーカルのラッシことラグナーは本当に演劇好きで、アチコチの小シアターで機会あるごとに細かなパフォーマンスを繰り広げていることが分かってきたし、アイスランドのクリスマスの終了日(1月6日)には山へ帰るサンタのパフォーマンスを私も見た。ヨーロッパ諸国でも名高い舞台監督を父親に持つ血筋か、根っからのステージ人間だ。
 そして今日はアイスランドが輩出した国際的バンドの結成を祝う晴れの舞台だ。ラグナールはタキシード姿で髪もバックでバッチリ決めて、見た目はフォーマルだが、歌うその姿はクレイジーなロックンローラー。本領発揮で中盤からはシャツを脱ぎ、そしてズボンを脱ぎ捨てる。ズボンの下は白い線の縁取りがある黒いブリーフで、何でも家族がクリスマス・プレゼントにくれた”衣装”だそうだ。彼がブリーフ姿になる頃にはビョークも前列までやってきて、楽しそうに踊りまくっている。こうしてアーティストがひしめいているレイキャヴィークでも、ご当地一流の音楽アーティストがこれほど集うことは滅多にあるまい。ビョークとシガーロスがそこにいるだけでもスゴイのに、その上アメリカやイギリスのレーベル経由で世界中にCDが出ているグループのメンバーも数多く顔を揃えていた。
 ラグナーのセクシーなブリーフ姿に誘われ、ムギソン(ムーギーソン)がギターを持って飛び入りしてきた。『Lonely Mountain』というアルバムで2002年に突然現れた話題のアーティストで、2003年9月にはムームと共に来日してギター、歌、ラップトップでのワンマンバンドのパフォーマンスを見せてくれた。街で見かけるムギソンはやわらかな物腰の男性だが、今日のステージは今までにないほど激しくロックンロールするムギソンだ。ラッシとのちょっとエッチな掛け合いもあり、これ以上あり得ないというほど客席も激しく盛り上がる。そこにいつもはクールな顔をしているベースのヴィッディが、クイーンのフレディ・マーキュリーのようなバレータイツ姿を披露。もう何がなんだかわかんないよ・・・。
 アイスランド語での「ハッピバースデイ、シガロース!」というのも歌われ、滅茶苦茶楽しくパーティは・・・・始まった。夜の夜中だというのに、これが始まりで終わりではなかったという。私もたっぷりと汗をかいたので、とりあえずは水分補給にビールを手にした。そこへクルマちゃんがやってきたので、
 「あのヴィッディの衣装すごかったわね。どこで見つけたの?」
 「クリスマス・プレゼントにヴィッディのおばさんが手作りしてくれたのよ。ラベルを貼り間違えて私宛てのプレゼントになっていたんで、見たトタン、こんなに胸が開いているのは丸見えになって着られないって言ったら、”あぁ、それはヴィッディ用よ”ですって」
 クルマちゃんはすごーくボインだもんねぇ。私に半分分けてくれても、まだまだいっぱい残る。
 ラッシの黒ブリーフにしても、家族からの理解と応援の濃さを感じずにいられない。影でそっと応援していますというのではない、もうここまで有名になってくると、はしたないという考えはなく(元々「はしたない」というのは日本人だけのコンセプトか?)、もっとこうすれば?と家族から過激な提案があるようだ。やっていることはお下劣スレスレであっても、幸か不幸か激しくなればなるほどメンバーの育ちの良さもそこに見え隠れする。そういう点、どれほどハメを外しているように見えても娯楽の域を逸脱することはないし、だから安心して心から楽しむことができるバンドなのだ。
 彼らのパフォーマンスが終わると、シガーロスのメンバーがシャンパングラスを片手に、トラバントの楽屋を訪れたという。インフルエンザで熱を出していたキャータンは、「トラバントは奇跡だ!僕の風邪を治してくれた!気分は最高!」と大喜びだったそうだ。しかし乾杯をして、シャンパンを一杯飲んだ直後に「う、やっぱり気分が悪くなってきた・・・」と蒼白になり、周囲の人間は笑うに笑えなかったとキャータンは数日後に会った際に教えてくれた。
 
 後日、どこの国でも同じだなと思う出来事をトラバントのメンバーから聞いた。それが何かといえば、トラバントはシリアスな音楽バンドではなく、おちゃらけバンドだからと評論家筋からはずっと無視されていたという。しかし泣く子も黙る女王様であるビョークが前列に繰り出して楽しんでいたことから、トラバントはこの日を境に「ビョークのお気に入りバンド」ということになり、評論家が彼らにおべっかを使いに来たという。
 「今まで全然無視して絶対に何も書かなかったくせに、昨日は両手をあげて”君たちは最高だ”なんて言ってくるから、キモワリィ」
 「今度、話を聞かせてくれって言われたけど、”そのうちに”と言ってその場を去った」等々。
 何にしても認められるのは悪いことじゃないと諭したけれど、評論家や記者の手のひらを返したような態度に彼らは興醒めしひどく腹を立てていた。

 そうそう、会場脇の長テーブルの上には、”誕生日”プレゼントが置いてあった。メンバーの顔をデフォルメしたアート作品、花束、シガーロス(栄光の薔薇)を示すようなドライフラワー、紅茶セット、誕生日カードなどなど。
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    (小倉悠加)
by icelandia | 2005-08-25 01:37 | アイスランド音楽名盤紹介 | Trackback(2) | Comments(4)
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